愁う蒼空

□淡い夢
1ページ/2ページ

淡い、儚い、夢。


マキの長い指が、あたしの髪をそっと
梳くようにゆっくり撫でる。

仕事でいない時以外毎日。
必ずあたしの髪を撫でてくれる。

「レイナ、おやすみ。」

そっと頬に口づけてくれる。


あれは、夢。



思考が、まるでテレビの砂嵐みたいな音で狂わされた。

ミナミに捨てられたあの時みたいに。

激しい頭痛。


電話越しに笑い掛けるハヅキの声に、必死に応えた。


「またね」

そういったあたしの声は、不自然じゃなかっただろうか?


*********

いつ頃だっただろう。

出張で、マキが帰らない日が何日かあって、それが裏切りの引き金。


「マキ、ケータイ借りていい?ちょっとサイト確認したい」

ハヅキと電話しながら、サイトを見る為にケータイを借りた。

マキは本を読んでいて、あたしに関心がないみたいに「うん」と返事だけした。


お気に入りリストの中に

「画像」

というフォルダを見つけて
心臓が、跳ね上がるのを感じた。


動揺しちゃいけない
きっと何かお気に入りの、漫画とかの二次創作系を見つけて
だから
疑っちゃいけない




リンク先は

掲示板。

素人が写真を投稿する場所。

相手と逢うことも出来る。





そういう場所。





声が掠れた。

世界が揺れて。

他は覚えてない。

締め付けられるような胸の痛みだけ。



必死で
平静を装った。


ハヅキとの電話を終えて、一言も話さないあたしに、マキが気付いた。


「どうした…レイナ…?」


何も話したくない。

今口を開いたらきっと
零れ落ちるのは怒り、悲しみ、憎しみ

そして耐えがたい程の絶望


「レイナ、どうした?」


ただ首を横に振るあたしに、マキは何があったか気付かない。


もう、何を信じていいか分からない。
あなたのその笑顔は何?
嘘?マキ、あなたは嘘で出来ているの?
あたしが、穢れてるから?
穢れたあたしがいけないの?
あたしが汚いから
だから他の女の体がほしくなるの?




逢ったの?



キタ……ナ………ィ…ョ…。





マキのお母さんに、お風呂だと呼ばれた。


ただ、不機嫌な顔をして脱衣所に行き、いつもと同じようにお風呂に入った。



マキは、ずっと

「どうした?なんで怒ってる?」

そればかり。



「マキ、自分で気付いて。お願い。」


掠れる声で、搾り出した言葉。


お願い。




「わかんないよ、レイナ…なんで…?」




哀しかった。

悲しくて哀しくて

爪を立てて拒絶した。


「レイナ!何だよ、どうしたんだよ!」

わけが分からない、という顔で
マキがあたしを見てる。


「分からないの?ホントに?自分がしたことでしょ?自分が一番よく知ってるでしょ?分からないの?ホントにわからないの?だったら教えてあげる。ねぇ、これは何?この女はダレ?あたし言ったよね?こういうのが一番嫌いだって言ったよね!?」

掠れた声で悲鳴のような声で
裏切りを叩きつけて
本当は





首をへし折ってやりたいと思った。






「わかってる。あたしがいけないの。あたしが汚いから。穢れてるから。知ってる。そんなの、あたしが一番知ってる。汚いから興味が薄れたんでしょ?いらないならそういってよ。あの場所に戻るだけだから。いらないって言ってよ。汚いからいらないって言ってよ!!!」




気付いた時。

マキは泣いていた。


「ごめん、ごめん…レイナ…」


どうして?


「同じだね。マキ。ミナミも、そうやって泣いて謝ったんだよ。」




『『ごめん、レイナ。俺はお前のこと好きだよ?ちゃんと終わりにするから。お前の傍にいるから』』


「同じだね。マキ。ミナミと同じで、嘘つきで、汚い手で触るんだね。いいよ。あたしはあの頃より汚いから。少しくらい汚い手で触っても、また少し汚くなるだけだから。いいよ。マキ。でも、マキはあたしより汚いよ」


うわごとみたいに呟いた。


いつだって信じさせたクセに裏切ったマキを。信じてくれと言ったクセに裏切ったマキを。

信じたのがいけないんだ。



−あれは、夢だったんだ−
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ