●恋愛小説●

□契―チギリ―第二章愛する者の死
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「ねえ、暗鬼」
 黙って座っていた時歌が、ふいにそう言った。
「何ですか?時歌様」
 暗鬼は目を閉じたまま言った。
「やっぱり、暗鬼も私のこと『時歌様』って言うのね。なんか変な感じね」
 時歌はそう言って、笑った。
「暗鬼はさ、私にとって特別だったから、特にそう感じるのよ」
「特別?」
「やっぱり、特別じゃない。幼馴染ってさ。物心つく頃から、顔を会わせて、遊んで、習い事とかも一緒にして、時には喧嘩したりして」
「…喧嘩というより、一方的ないじめでしょう?」
 暗鬼がため息まじりでつぶやいた。
「そうかな?だって、暗鬼からかうと面白かったんだもん。だから、急に様付けで呼ばれると、悲しいっていうか…」
「………」
 時歌は、暗鬼を後ろから抱きしめた。
「…暗鬼だけは、私のこと『時歌様』なんて言わないで」
「………」
「お願いだから…時歌って、いつも通り言ってよ。敬語なんか、使わないで」
「ふざけ過ぎです」
 暗鬼がそう言って、立ち上がった。
「あはは、ばれた?」
 時歌が顔を上げて、舌を出した。
「ちぇ、ちょっとは動揺するかと思ったんだけどね。昔はからかいがいがあったんだけど、今はさすがに無理か」
 時歌がそう言って、立ち上がると、外の方に近づいた。目の前には、大きな湖が広がっている。
「雲が一つもない。今日は、晴天ね」
 時歌がそう言うと、暗鬼は隣に立ち、時歌の頭を軽くなでた。
「そうだな。時歌」
 時歌は、溢れ出す悲しみを抑えることが出来なかった。両手で顔を覆うと、暗鬼の胸に飛び込んだ。暗鬼は優しく時歌を抱きしめた。
             
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