●恋愛小説●

□契―チギリ―第一章始まりの時空
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――――――時はきたれり

 高々く、三日月が輝いていた。池では、鯉と一緒にきれいに泳いでいた。
「時はきたれり…」
 十八くらいの少年が庭で、星空を眺めつぶやいた。
「時也(ときや)様…よろしいでしょうか?」
 少年の後ろで、男の声がし振り向いた。そこには、二人の男と三人の女が片ひざをつき、少年に向かって頭を下げていた。
「ああ、氷河(ひょうが)。どうした?」
 一人の銀髪の男が顔を上げた。
「…本当に、天神(てんじん)族を潰すのですか?」
「ああ…。十の夜の丑の刻に、天神族に奇襲をかける。命懸けとなるぞ」
 少年は、月を見上げて言った。
「しかし、そう簡単に天神族を潰せるとは思えませぬが…」
 緑髪の女がそう言った。
「風真(ふうしん)、お主やはりつらいか?」
 少年が笑顔で言うと、女はあわてて首を振った。
「い、いいえ!そんなことはありません!私とて、天神族を潰せるものなら潰したいです。しかし…地木の…いえ、天神の力は本物です。そう簡単に潰せるとは思えないと…そう申しているだけで…」
「分かっておる。天神の力は…特にあの天神五人衆の力は底知れぬ。しかし、このまま天神の思い通りに動くわけにも行かぬのだ。我ら眼嗣(がんし)族の名にかけても、天神族を越えなければ、一生名を恥じたままになる。我らが表舞台で、きやつらが裏舞台。それもいいだろう。しかし…結局は、我らは天神族の裏で操られたままなど、永遠にこの因果の鎖を断ち切ることは出来ぬ!」
「時也様…私は、反対いたしません。けれど、何故ゆえ今?」
 紅髪の女が顔を上げて言った。
「紅火(こうか)、時はきたのだ。月がそう告げている。我ら眼嗣五人衆も強くなった。今なら…いや、きっとおまえ達なら…天神五人衆も討ち取れよう」
「はっ!それは、もちろんでございます!」
 そう女は言うと、頭を下げた。
「時也様…」
「どうした、音(おん)」
 少年は、もう一人の男の方を向いた。
「一匹、鼠が忍び込んでいるようですが」
「何!?」
 すると、天井でゴトッという音が一瞬した。
「天神者か!?」
 紫髪をした女が天井に向かって、小刀をすばやく投げたが、すぐさま天井裏を何者かが走る音がし、すぐに遠ざかって行った。
「ちっ、逃がすか!」
「止めろ、雷木(らいき)!」
 少年が追いかけようとしていた女を止めた。
「何故です、時也様!?このまま逃げられては、天神族に全て知られてしまいます!」
「よい。いずれ、知れることだ。それが早まっただけのこと。所詮、奇襲と言えども天神に内密にすることは不可能よ」
「しかし…!」
「雷木、お主天神の力を恐れておるのか?」
 少年の問いに、女は言葉に詰まった。
「…正直に申し上げますと、少し怖いです。けれど、五人衆の一人として、私楼閣雷木としても、あなた様に一生仕える想いです!眼嗣族に命を捧げております!」
「有難う…怖いか。私も怖い。けれど、自分を見失ったらいけない。だから、そのために私は戦う」
 少年は、月を見上げるとそう言った。
「…しばらく、一人にしてもらえるか?」
 少年の言葉に、五人はさっと引いた。

 少年は、しばらく暗い部屋でじっと月を見上げていた。何をすることもなく、ただじっとしていた。
 しばらくたち、少年は立ち上がると庭に出た。
「…月が…ざわめいている」
 少年がそう言った直後だった。

 
 …白い光が、世界を包み込んだ。

              
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