●恋愛小説●
□宝物(仮)
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どれくらい走っただろうか。気がつくと見知らぬ住宅地にまで走ってきていた。バスケ部に入っていた私は走るのが好きだった。だから、たまにむかつくことがあると、ガムシャラに走るのだ。途中何度か道路わきで吐いた。けれど、家へ帰ることなく走った。
「ふう…」
私は目に入った公園に入り、水道の水を飲んだ。冷たい水が喉を通る。袖で額に流れた汗を拭い、近くの木のベンチに腰を下ろした。
「こんなに走って…赤ちゃん怒ってるかな」
私はため息まじりでつぶやいた。目の前では、子ども達が楽しそうに遊具やら砂場やらで遊んでいる。
「あれ、エミカ!?」
急に自分の名前を呼ばれてまわりを見た。けれど、知っている顔は見当たらない。
「私よ、私!」
「え…」
私は唖然として、乳母車を押してこちらに来ようとしている人を見た。
「まさか、リンコ?」
私は信じられずにまじまじとリンコの顔を覗き込んだ。そして、ちらっと乳母車の中を見るとまだ一、二歳くらいの赤ちゃんが小さく寝息をたてている。
「久しぶりだね、エミカ」
リンコが笑顔で言う。
「あ、うん。久しぶり」
私は驚きながらも頷いた。
リンコは、中学の時の同級生だ。優しくて、明るい子だったのを覚えてる。そして、ある日突然学校に来なくなった。
理由は――妊娠だった。
私を含め、皆が驚いた。特に素行が悪かったわけでもなかったリンコが二十代後半の人と付き合っていたなんて。
その後、私はリンコが何をしていたかなんて知らなかった。知ってもどうにもならないし、自分でしたことだ。
私に言う権利は何もない。
たとえそれが、トモダチでもだ。