●恋愛小説●
□宝物(仮)
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天罰がくだった。
きっと私の醜い欲張りな欲望が、神様の怒りに触れてしまったのだろう。だからって、こんな仕打ちがあるだろうか。
「くっ…」
涙がこぼれる。トイレで泣くなんて惨めでかっこ悪いからしたくなかった。どうしてこんなことになってしまったのだろう。いや、悪いのは私だ。こんなことを予想していなかった馬鹿な私が悪い。でもまさか、こんなことに。
赤ちゃんが出来るなんて―――。
これでもう、彼に会うことは出来ない。彼に会ったら、彼に知られたら絶対に迷惑に思われるし、うざく思われる。嫌われてしまう。それだけは、嫌だ。嫌われたくない。彼に言わずに、さっさとおろしてしまおう。父親に話して、お金を出してもらおう。話したくないけれど、止むを得ない。彼に会いたいから。
そしたらきっと――きっと。
「産みなさい」
「え?」
今父は何て言ったのだろうか。お願いだから私の空耳であるように。
「お父さん、今何て?」
「産みなさいと言ったんだ」
父は腕組をして、平然と私に向かってそう言った。
「ちょっと待ってよ。私はおろしたいって言ってんのよ!」
「お前、おろすってことを簡単に考えてないか?」
父の言葉は、少なからず私の痛いところを突いた。
「分かってるよ!」
「おろすってことは、新しい命を奪うってことなんだぞ」
「分かってるって言ってるでしょ!」
私はいらいらして、そのまま机を叩いて立ち上がった。
「お父さんがお金出してくれないんだったらもういい!バイトするから!」
「待ちなさい。お前、今のつわりがひどい状態でバイトできると思ってるのか?」
図星だった。最近、つわりがひどくてまともに学校にさえ行けない私に正直バイトは無理だった。けれど、頼りにしていた父に断れた今、他に頼れる人はいなかった。
「相手には言ったのか?」
私は首を横に振った。
「誰だ?」
「分かんない」
「そうか」
父はそれだけ言うと、立ち上がって奥の自分の部屋へと引き上げていく。
「そんだけ?」
私が父の背中に向かって言うと、
「本当は分かってるんだろう」
そう言った。襖を閉めると、私は思いっきり襖に先ほどまで父が使っていた湯のみを投げつけた。
「むかつく!」
私は自分の部屋へ行き、ジャージ姿に着替えると運動靴を履き、家を出た。そして、走った。