●恋愛小説●

□露命―ロメイ―
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―――――シュウ――――――

 ―――三年後。
 新宿歌舞伎町ホストクラブ『乱舞』。
 シュウは、ネクタイを締めていた。鏡に映る姿は、まさしく『乱舞』のbQに相応しかった。
 誰が見ても、かっこよかった。
「シュウさん」
「ナオヤか…」
 ドアを開けて入ってきたナオヤをちらっと見て言った。ナオヤは、『乱舞』のbRで、『乱舞』の中では、シュウと一番仲が良かった。
「あの、女の人が来ているんですけど」
「客?まだ店開けてないだろ?」
 シュウは、怪訝そうな顔でナオヤの方を見た。
「いや、それが…今まで一回も来たことない人で、シュウさんを呼んでいるんです」
「関係ないだろ。開店してから来てもらうよう言ってくれ」
 シュウは、ソファーにどかっと座るとポケットからタバコを取り出して吸った。
「…それに、開店前に客を受け付けないのは常識だろ?」
 シュウが口から煙を吐いた。
「でも、シュウさん…」
 ナオヤが少し困惑した表情を見せた。
「どうした?」
「…その人、最初はシュウさんを呼んでくれって言ったんです。だから俺もちろんシュウさんが断ること分かってたし、断ったんです。そしたら…」
「そしたら?」
「そしたら今度は、スバルさんを呼んでくれって言ったんです。スバルってうちのホストにはいないし…ちょっと気になって」
 シュウは、眉を少しつり上げた。
「…名前は?」
「あ、えっと、エミカって言ってました」
「エミカ?」
 シュウは吸っていたタバコを、灰皿に押し付けた。そして、立ち上がってドアの方に歩き出した。
「シュウさん、知り合いですか?」
 ナオヤが聞いた。
「いや…」
「知らないのに行くんですか?」
「ああ…」
 シュウの顔が、少しだけ曇っていることにナオヤは気がついた。ナオヤは一瞬、聞いていいかどうか迷ったが、好奇心には勝てなかった。
「あの、シュウさん。スバルって誰ですか?」
 シュウは、ナオヤを笑顔で見た。その笑顔は、すごく切なく悲しそうだった。そして、シュウは口を開いた。
「俺の…捨てた名前だよ」

 シュウ――いや、スバルはそう言った。


               
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