●恋愛小説●

□古ぼけた一枚(作成中…)
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 ――――お願いだから、目を覚まして。

 私はそんな思いで、押しつぶされそうだった。自分が吐いた言葉なのに、それに負けてしまいそうになる。どうして、こんなことになってしまったのだろうか。
 彼と出会う前の時間は、ただ過ぎているだけだった。そして、今彼が目を覚まさない時間もまた過ぎているだけだった。できることなら、巻き戻してしまいたい。過ぎる時間が惜しくて、ただ彼といる時間が愛しくて、止まってしまえばいいとさえ思った時間に。けど、いくら巻き戻しても、この時間はやってくるのだ。彼がいない、彼の笑顔がない、この時間へと――――。
「いつ?」
 突然、佑介が口を開いた。
「何が?」私が答える。
「いつから、付き合っちょったと?」
「………高1の、夏だった。まともに話したのは、その数日前」
 私は、何で今こんなことを冷静に佑介に話しているのか不思議だった。でも、佑介との沈黙が怖くて、私はただそう真実を口にしていた。
「どうして?」
「どうしてって?」
 私は目線を彼から変えずに聞いた。佑介の目をまともに見ることが出来ないから。
「どうして、付き合おうと思ったと?」
「……分からない。ただ彼が…愁が、私を変えてくれるかもしれないと思ったから。…そして、愁に興味があったから」
「教えてくれん?」
「え?」
「彼、千種が好きになった男のこと」
 私は思わず、佑介の方を見た。佑介は壁にもたれかかり、私ではなく、じっと横たわっている彼を見ていた。睨んでいるわけでもなく、同情しているわけでもなく、ただじっと見つめていたのだ。
 私は、口を開いた。
 私が彼を意識し始めたのは、あの夏前のやけに眩しい夕陽が私達を照らしていた時。二人でいる空間が、まだ痛々しかった頃。

 ――――もし、あの時間がなかったら、私は今ここにいないのだろうか。
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