●恋愛小説●

□夕暮れの日時
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「あれ、だめ?」
 喜美代が平然な顔をして言う。
「いやー!また道隆と同じこと言ってるし!ていうか、道隆の彼女のあんたにこんな話してる私もおかしいのか!?いや、おかしいんだ!!」
 てんぱっている私を見て喜美代が笑って、
「別におかしかないけど、今の菫は断トツおかしいよ!」
 そう言った。
「うるさいっ!なんで喜美代はそう笑ってられるのかなぁ。私がもしよ、もし!もし道隆に告白して、困らないわけ?」
「別にぃ」
 喜美代の平然とした態度に、私の開いた口がふさがらない。
「だって、確かに私は道隆の彼女だけど、道隆に好意を抱いている子の行為を邪魔する権利までは持ち合わせてないわよ」
「また喜美代は…小難しいことを…」
 私が頭を抱えて唸ると、喜美代が私のつむじを突付いた。私は複雑な心境のまま顔を上げると、喜美代は変わらず、むしろ笑顔で私の情けない顔を眺めている。
「ねぇ、喜美代」
「何?」
「喜美代と道隆…付き合いだしてどれくらい経つ?」
「ざっと半年かな。みっちゃんが告白してくれて、すぐオッケーしたから」
 喜美代が指折り数えている。
「ねぇ何であの時オッケーしたわけ?」
「何でって?」
「だってその時私すでに喜美代とすごい仲良かったじゃない。道隆のこと好きなのもずっと前から教えてたし…」
 私は思わず目をふせた。
「それ聞くの何度目?」
 喜美代が可愛く笑って言った。
「菫のためって言ってるじゃない」
「だから意味分からないって!なんで付き合うことが私のためなの!?好きで付き合ったんならまだ諦めつくけど、それじゃさっぱり分からない!」
「あら、でもみっちゃんのこと私好きだよ。好きじゃなきゃ、いくら菫のためでも付き合わないし」
「理解出来ないぃ!喜美代はそれでいいのかもしれないけど、道隆はどうなるのよ?」
「どうなるって?」
「だから……気持ちとか!!」
 私は慌てて人差し指を立てて言った。
「気持ちねぇ…なら、直接聞いてみる?」
「は?」
「みっちゃんっ!!」
 喜美代が突然立ち上がって、大声で教室の隅で友達としゃべっている道隆を呼んだ。
「ちょっと!喜美代!?」
 私が止めるのも聞かず、喜美代は道隆の所へ行くと、何かをしゃべっていた。しばらく経って席に戻って来た。
「喜美代!あんた何て言ったの!?」
 私はすごい形相で喜美代に詰め寄った。
「別にただ今日、帰り私達三人でマックでも行って語ろうって言っただけよ?」
「か、語るって何を!?」
「そうねえ、議題は『三角関係?』って感じ?」
「………喜美代。あんた一体何者よ?」
「ただの高校二年生よ」
 私はため息をついた。分かってる、これが喜美代の冗談だってことも。けれど私にとっては今やもう冗談じゃ済まなくなってきているのだ。
 時が経つにつれて薄れていくどころかどんどん濃くなっていく、私の無意味な想い。ずっと生まれてこの方、空中をさ迷っていた。
「無理…無理だよ」
 私の言葉に、喜美代が反応した。そして、軽く私の頭を叩いた。
「馬鹿っ!」
「……アホっ!」
 私は喜美代に向かってそう言うと、立ち上がった。そして、机の隣にかけてあるカバンを取った。
「喜美代、私別にいいんだよ」
「何が?」
「喜美代が道隆のこと好きなら、全然構わない。二人が愛し合ってるなら、私が入れる隙間ないから」
「愛し合う…ね」
 喜美代が眉をよせて、天井を見上げる。

「私とみっちゃんはね、愛し合うって言葉似合わないのよ」

       
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