●恋愛小説●

□夕暮れの日時
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1.愛し合うって言葉似合わないのよ

「ったく、今日は朝から大変だったよ」
 私はぶつぶつ言いながら、机の上にカバンを置く。いつもの小汚い通学カバンが少しだけ愛しく思えた。
「遅れたわりには、何にやにやしてんの?」
 前の席に座っている喜美代が半分あきれ返ったように見ていた。
「えっそう!?分かる!やっぱり!?」
 私のテンションに、喜美代はさっき以上にあきれ返った。
「大方、みっちゃんでしょ?みっちゃん、菫のカバン持ってたし」
「ちょっと、何度も言うけどみっちゃんって言うのやめてよ。なんか女の子みたいじゃない。道隆よ!み・ち・た・か!」
 私の勢いにさらに喜美代が呆れる。
「ったく、いい加減みっちゃんに頼るのやめなさいよ」
「あ!またみっちゃんって言った!」
「いいじゃない、みっちゃんで!どうせ今日もみっちゃんに言われて慌てて来たんでしょ?菫の頭には記憶容量がないの?」
 喜美代が軽く私の額を叩いた。
「あ、なんか似たようなこと道隆に言われたかも」
「言うわよ。ひょっとしたら、あんたまさかわざとやってる?」
 まじまじと喜美代が私の顔を見てくる。
「まさかぁ!好きで新ちゃん先生に怒られる馬鹿はいないよ!」
「…そりゃそうだけど。菫のそのにこにこした顔見ると疑いたくなるのよ。本当にあんたみっちゃんのこと好きなのねぇ」
 私の体温が急上昇する。
「ちょっ!そんな普通な声で言わないでよっ!」
 慌てて喜美代の口に手を当てるが、一度出た言葉はもう戻って来ないのは当たり前だ。まわりを見ると、どうやら誰も聞いていなかったらしい。ほっとして胸を撫で下ろすと喜美代がじーっとこっちを見ていた。
「な、何?」
 突然だが、喜美代はまわりと比べると断トツに美人だ。私なんか正直比じゃない。
長いストレートの黒髪(ちなみに私はぼさったウルフ)。
綺麗を越した雪のような肌(ちなみに私はデコにニキビが一つできてる)。
すらりと伸びたカモシカのような足(ちなみに私は喜美代より背が低いけど座高で勝ってる)。
 長く綺麗にカールしたまつげ(ちなみに私はまつげが短すぎてカールできない)。
 そして何よりもいいのがあの黒き瞳(ちなみに私はコンタクト)。
 つまり、簡単に言うと喜美代の眼力は、とてつもなく怖いのだ。
「いい加減告白したらいいのに…」
 突然の喜美代の言葉に目を丸くした。
「ば、馬鹿言わないでよ!」
 私はさっき以上に顔を紅潮させて、一度立ち上がり、また座った。
「そんなこと出来ることなら…とっくにしてるよ」
「今時いないよ?十年以上の片思いしてる子なんて。それに、けっこういい感じにいくかもしんないよ?みっちゃんだって、菫と長い付き合いだしさ」
「…ねえ、私やっぱり喜美代が分からない。喜美代とは高校で知り合って大分経つよね?」
 私の問いに、喜美代がうなずく。
「正直私は、今までにいないくらい気が合う親友と思ってる」
「私もよ」
「でも分からない!!これだけはっ!!」
 私はそう言いながら、首を横に振った。
「何がよ?」
 私は一回一息ついて、

「どうして、道隆の彼女の喜美代がそういうこと言えるのよ?」

 そう言った。
        
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