●恋愛小説●
□夕暮れの日時
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「な、なんでもっと早く言わなかったのよ!」
道を全速力で走りながら叫んだ。隣には、余裕な顔をして自転車に乗っている道隆がいた。
「だって、完全に忘れてて逆にウケたし」
「しかも、なんで女子だけなわけ!?男子は!?」
いつも走っているとはいえきつい。息がきれる。カバンが重い。
「この間、女子練習さぼったろ?その罰だから」
「あれは!喜美代が!」
「すぐ人のせいにする!」
間髪いれずに道隆が言う。
「くっ…あぁもう!!」
「ったく、ちっとは感謝しろよな。教えてやったんだから」
道隆が呆れたように言った。
「…してるわよ、いつも!」
私は半分やけくそで叫んだ。
「あれ?今日は素直じゃん」
驚いた顔で私の顔をのぞく。
「いつも素直ですから!」
舌を出して、自転車を抜く。ダッシュダッシュ。
「…よし、素直になったご褒美!」
道隆がそう言って、走っている私の背中を叩いた。
「わっ!」
勢いがついていた私は思わずこけそうになった。
「こらっ!危ないじゃない!って…あれ?」
ふと気がつくと、さっきまで持っていたカバンがない。もう大分先に行った自転車に乗った道隆の後ろ姿が小さく見える。そして、自転車のカゴから少し飛び出している私の小さなカバン。
いつも私の方。
「バカーっ!!」
私が思いっきり叫ぶと、道隆が右手を上げて中指を立てた。道隆の姿がどんどん小さくなっていく。
私の顔から笑みがこぼれる。そして、さっきの倍ほどのスピードで走る。
いつも私の方。助けられるのはいつも私の方。追いかけるのもいつも私の方。
見つめるのは―――いつも私の方。