●恋愛小説●

□契―チギリ―第二章愛する者の死
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 一、やっぱり、特別じゃない。幼馴染ってさ。

「じゃあ、その祠に行くの?」
 時歌がそう言うと、地木がうなずいた。
「ええ。暗鬼の報告で、祠が壊されていることが分かったので、一刻も早く直しに行かなければなりません」
「その祠って、何の意味があるの?」
 時歌の言葉に、その場にいた光明と流甲斐、そして暗鬼が驚いた。地木が、一回咳払いをしてから、
「時歌様、もう一人の時歌様に聞いてないのですか?」
 そう聞くと、時歌が困惑した顔をした。
「…私は、あの人の声を聞いたのは、一回きり。詳しいことは全然…」
 そう言って、首を振った。
「そうですか。…あの祠は、結界を意味しているのです」
 地木がそう言うと、時歌は首をかしげた。
「結界って、なんの?」
「普通の人、そして眼嗣の者が入ってこないように。言わば、目隠しのための結界ですよ」
「目隠し?」
 時歌がわけ分からないという顔をした。
「姫様、私達天神族が裏で生きていることは知っていますよね?」
 光明がそう言うと、時歌はうなずいた。
「つまり、私達天神族の存在は、普通の世間に知られるわけにはいかなかった。そのために、私達は身を隠す必要があったのです」
「それが、その祠の結界で隠れられるの?」
「ええ。あの結界は天神以外の者を受け付けません。もし、普通の人間が近づいても自然と入らせないようにしているのです」
「すごい!」
「けれど、たまに無心で近づいてくる者がいるのです。邪心も何もない者、つまり子どもや赤ん坊の類いですね。そういう時は…」
 光明がそう言って、地木の方を見た。
「私の出番ですよ」
「地木が?どうやって?」
「森を、木々を動かすのです」
「えっ?」
「私の力は、自然界を司る力。だから、森の動きは全て分かりますよ。木達が教えてくれます」
「ありえない…」
「ありえない力が、我々の力なのです」
 時歌は一瞬何かを言おうとして、止めた。自分もその一人だということを思い出して、それから何かしら不安な思いが出てくるのを止めることが出来なかった。
「それじゃ、その祠も地木が作ったの?」
 時歌が聞くと、地木は首を横に振った。
「祠の結界を作れるのは、時歌様だけですよ」
「わ、私!?え、いや、違う。もう一人の私…か」
 時歌がそう言うと、部屋の隅で座っていた暗鬼が急に立ち上がった。
「…暗鬼?」
 時歌が驚いて暗鬼を見上げた。
「何て顔してんだよ。時歌様は、時歌様。時歌様に出来て、時歌様に出来ないことはないだろ」
「でも、私、やり方なんか知らない!」
 時歌が必死な顔をして言うと、その場にいた全員が顔を曇らした。
「…姫様、地木殿。とりあえず、祠へ行ってみてはどうでしょうか?」
 光明がそう言うと、地木が少し考えてうなずいた。
「そうするしかないですね。時歌様と私で、祠へ向かいましょう」
 地木がそう言って立ち上がった。
「俺も行く」
「暗鬼…そうですね。分かりました。それでは、ちょっと森の具合をうかがって来ますので、姫様と暗鬼は行く準備をしていて下さい。光明と流甲斐は、警備をしている村の者の様子を」
「承知した」
 流甲斐と光明がうなずいて、部屋を出て行った。そして、地木も部屋を出て行くと、時歌と暗鬼だけになった。
            
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