●恋愛小説●
□宝物(仮)
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――――遊び――――
あの人にとってただの遊びだと分かっていても、私はそれを理解できるほど大人じゃなかった。どこにでもいるただの女子高校生で、特技も何もない。誇りなんてないし、あるのは唯の埃。そんな私でもこれだけは言えるってことはある。
それは――自分であること。
それ以上でも、それ以下でもない。自分は自分意外の何者でもない。私は、唯の高校一年生の16歳。
エミカ――。
それが私の名だ。
「エミカ」
彼の声がすぐ近くで聞こえる。遠くなんかじゃない、すぐ耳元で。彼の手が私に触れる。彼の唇が私の唇に触れる。
私達は一つになっている――はず。
私は彼を愛していた。私の心は彼を常に求めていたけれど、彼は違う。それは皆が分かっていること。彼と付き合っている女全てが理解していること。それでも、私達は彼を求めてしまう。
彼の顔、声、体、そして心を愛してしまっているから。
「スバル…」
身体は一つなのに、心は遠い。どこか二人は別々の所にいるみたいだ。愛していても、彼は私を愛してくれない。分かっていても止められない。でも、願ってしまう。
私を愛してほしい、と。
彼の心は一体どこにあるのだろうか。もしかしたら、心に決めた人がいてその人のところにあるのだろうか。それとも、どこか遠い過去に置いてきているのだろうか。
「っつ!」
彼が顔を歪めた。どうやら、私の爪が彼の背中を引っかいたようだ。
「ご、ごめん!大丈夫?」
「ああ、平気」
私はきっと無意識のうちに彼を放さないようにしているのだ。誰にも渡したくないという独占欲が滲み出ているんだ。人間の私の浅ましい欲望は、日々大きくなっていく。いつかそれは溢れ出してしまうんじゃないか。そう思うと怖かった。けれどそれ以上に怖いのは彼を失うこと。
嫌われること――。
「ごめんね…」
彼はきっと私がいなくなっても全然平気なのだろう。そう思うと、胸が苦しくてたまらない。
「あっ!」
彼のものが私の体に入ってくる。私は、ずっと彼と繋がっていたい。心も体もずっとずっとずっと―――。
スバル――。