●恋愛小説●
□露命―ロメイ―
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スバルは震えていた。
まだ幼さが残る小さな手で、似つかわない包丁を手にしていた。刃の先からは、真っ赤な血が、ポタッポタッと床に落ちていく。
「…父さん、母さん…ごめんなさい」
スバルは、足元に転がる女と男の死体を目にしてつぶやいた。
「…僕は、僕でいたいんだ」
そう言っているスバルの目からは、涙が溢れていた。
ガタッ。
物音に反応して、スバルは後ろを振り向いた。
「おじいちゃん…」
スバルは、目を見開いている祖父の顔を見つめた。
「スバル……おまえは…何も悪くない」
呆然としながら祖父はつぶやいた。そして、スバルの側へよろめきながら行くと、スバルが持っていた包丁を取った。
「おじいちゃん?」
「おまえは…悪くないんだ。悪いのは、私たちだ」
スバルはゆっくりと首を横に振った。すると、祖父は一瞬驚き、笑みを浮かべた。
「行きなさい…おまえは、正しい路をゆくべきだ」
祖父の声は、いつになく優しかった。スバルの目からは涙が止まらなかった。
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
スバルは何度も言った。
「スバル、おまえはまだ若い。十一歳が背負うには重すぎるんだよ」
「…おじいちゃん、でも…」
祖父は、スバルの言葉を聞かずに側にあった電話に手をかけた。
ピッピッピッ。
祖父が電話のボタンを三回押した。
「……警察をお願いします。私は息子夫婦を殺しました…」
スバルは、ただ見ていた。
祖父の顔を…穏やかな顔をずっと見ていた。