●恋愛小説●

□夕暮れの日時A(作成中…)
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 世間は今はもう、甘い匂いで満たされる時期だった。
 私はと言えば、背中にホッカイロを貼り、ポケットにもホッカイロを入れている。寒さが何よりも嫌いな私は、この時期はとても嫌いだった。
 静かで、もう誰もいなくなった廊下を一人で歩いていた。カーディガンの袖を伸ばして手を覆い隠す。外はもうオレンジ色だった。
 クラスのドアの前に着き、開けると、
「遅いっ!」
 誰も残っていないと思っていた私は、一瞬面食らった。
「友岐、まだ残ってたの?」
 私は友岐の顔を見て、ため息まじりで言った。
「何、その言い方?今テスト前で部活ないから、菫と帰ろうと思って待ってあげてたのに!」
「そうなの、ありがと」
 私は机の中から教科書やノートを厳選して、カバンの中に入れていく。友岐とは、あの時をきっかけに仲良くなった。いつも一緒にいる喜美代がいなくなった私に、一番優しく接してくれたのは友岐だった。
「心こもってないなあ。ま、いいや。担任からの呼び出し、何の用だったの?なんか悪さでもしちゃった?」
 友岐は、笑いながら私の机の上に乗った。
「なわけないでしょ。進路について呼び出されたの」
「進路?菫まだ決めてなかったの?」
 友岐は驚愕な顔をした。
「悪かったわね。優柔不断なの、迷ってんだから色々と」
 教室を出ると、友岐が聞いてきた。
「ね、菫は何になりたいの?」
「私は……特に何もないかな」
「じゃ、OL?」
「あ、それはヤダ」
 私はきっぱりと言った。
「ワガママだね。じゃ、保母さんとか?」
「普通すぎない?」
「じゃあ…教師!学校の先生!」
「あ……」
 私は思わず足を止めた。
「嫌?じゃあ…って、どうしたの?」
 友岐が振り返った。
「あ、いや、ちょっと思い出した」
 私はそう言って、足を進めた。
「え、何を?」
 友岐が不思議そうに聞いてくる。
「…将来の夢、教師って言ってた人がいたの」
 私がそう言うと、友岐は眉をよせた。
「それって…喜美代?」
「うん」
「…に、似合わないよ」
 友岐があまりに顔をひきつらせて言うので、私は思わず笑ってしまった。
「だってさ、どちらかと言えば菫の方じゃない?子供好きでしょ?それに、勉強よく教えてくれるしさ」
「そうかなあ?」
「そうだよ、なったら?先生!」
 友岐があまりにも簡単に言うので、私は少し呆気にとられた。
「そんな簡単に言わないでよ。採用試験難しいんだよ」
「大丈夫、人間やる気があれば何だってなるんだから」
「あんたはお気楽すぎよ。あ、言っとくけど、ここまでだから。グラウンド行かなくちゃ」
 そう言って、私は靴箱のところで言った、
「え?部活休みじゃないの?」
「部活は休みだけど、走りたいんだ」
「えー、せっかく待ってたのに」
 友岐がそう言って頬をふくらました。
「ごめん、ごめん。じゃ、そういうことだから、バイバイ」
 私はそう言うと、グラウンドに向かった。
             
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