●恋愛小説●
□夕暮れの日時
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人がどうして、こんな想いをするのか分からない。分かってどうなるわけでもないけれど、願うことならなくしてほしい。
心を掻き乱す―――哀れな想いを。
「あつっ!」
私は人差し指を押さえると、水道の水で慌てて冷やした。駄目だと思いつつも、考える自分が今更ながら馬鹿らしく思える。
「おじいちゃん!朝ごはん!」
私は玉子焼きを皿の上に置きながら叫んだ。そして、瞬間に後ろに人の気配を感じて振り返った。
「何?また弁当の残り?」
後ろにあるテーブルのイスには、いて当然という顔をした道隆(みちたか)が座っていた。テーブルに肘をつき、いつもの少しがっかりしたような顔で。
「道隆…あんた何でここいるのよ」
ため息まじりで言うと、道隆が目を丸くした。
「あれ、だめ?」
「別にいいけど、毎回人の朝ごはんに文句つけないでくれる?私は朝香おばちゃんとは違うんだから」
そう言いつつ、微妙に口もとがほころぶ自分が嫌になる。
私は正直どこにでもいる高校二年生。他の高校二年生と違うところは、家が何代も続いている武道家ということと両親を交通事故で亡くしているということくらいだ。その時点で普通と違うと言われたりもするけど、環境が普通でなくても私自身は普通だから、やっぱりどこにでもいる高校二年生だ。容姿普通、頭普通、運動神経やや良好、性格おとなしめ、総合――普通。やっぱり普通だ。
道隆は、私の幼馴染。道隆は私と違い、普通とは言いがたい高校二年生だ。容姿良好、頭良好、運動神経良好(100、50メートル県一位)、性格明るくて、活発的で、少々むかつく、総合――別格。不公平な人選に神様を時々恨むが、実際これだけは感謝していることは事実。別格の幼馴染を持つことが私の唯一の自慢なのだから。
そして道隆は幼馴染であると同時に、胸はって言えない――私の想い人でもある。
「あれ、にしても今日早いね」
私は、エプロンを取りながら道隆に言った。
「…おれ思うんだけどさ」
「何よ?」
「お前の頭の中には記憶する部分が抜けてると思うんだよね」
しみじみと言う道隆に、私は段々むかついてきた。
「だから!何が言いたいわけ!?」
イスに座って、箸を取る。
「つまりだな。今何時だと思うよ?」
「馬鹿はあんたじゃない。まだ七時半前よ?今日は、一年生の入学式。登校は八時過ぎじゃない」
皿から玉子焼きを取って、ご飯を一口。
「お前の頭はほんとお気楽だな。陸上部員の神田菫さん?」
「え?」
―――女子陸上部員、4月10日入学式、朝の準備のため7時半登校、遅れたもの厳罰に処す―――
頭をよぎる。頭は真っ白になる。
「遅れたもの厳罰に処す…じゃなかったっけ?」
道隆の口がゆるむ。
「わぁあああぁぁ!忘れてた!」
いつもこうだ。
馬鹿にされるのはいつも私の方。抜けているのもいつも私。