短編集 (赤×橙)

□踏み出す勇気2
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そんな悶々とするある日。
新しい曲が途中までできたから聞かせたいと言われ、また松倉の家に遊びにきてる。

ギターをかき鳴らす松倉の指先と、歌うときの真剣な表情とよく通る声に、毎回俺は釘付けになる。

一通り曲の感想を言うと、松倉は嬉しそうにした。

「聞いてくれてさんきゅ〜」
「いやこちらこそ」
「あ、ちゃかが好きなプリンあるよ」
「わざわざ買いに行ってくれたの?」
「うん、遊びに来てくれたからさ〜」

自分のためにコンビニにひとっ走りしてくれた姿を想像して、思わず笑みが溢れた。

「はい」

顔つきはもう男らしいのに、目を細めて笑うとやっぱりかわいくなる。

踏み出すのは怖い。それならこのままでいいのかもしれない。ふたりでいると楽しいし、幸せだと思える。

なんて思いながら、それでも触れたい気持ちはやっぱりあって。
それでも、どうやって触れたらいいのかわからない。

「、、どしたの?」

不思議そうに俺を伺う松倉。

そのビー玉見たいな目に見つめられると、自分の中の知らない部分が刺激されてるように感じる。

それは庇護欲とか独占欲とか、生まれて初めて感じる感情で。

「キスしても、いい?」
「へ?」
「キス、したい」
「、、いいよ」

俺はその白い頬を両手で包み、引き寄せるようにしてキスをした。

ちゅ、と音を立てて離れた唇。
キスはもう何度もしてるのに、毎回毎回律儀に顔を赤くする姿に、また理性がゆさぶられる。

こいつが悦ぶことを、なんでもしてあげたい。そう思ってしまう。
それは決して善人みたいな意味じゃない。
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