短編集 (赤×橙)
□踏み出す勇気2
1ページ/5ページ
そんな悶々とするある日。
新しい曲が途中までできたから聞かせたいと言われ、また松倉の家に遊びにきてる。
ギターをかき鳴らす松倉の指先と、歌うときの真剣な表情とよく通る声に、毎回俺は釘付けになる。
一通り曲の感想を言うと、松倉は嬉しそうにした。
「聞いてくれてさんきゅ〜」
「いやこちらこそ」
「あ、ちゃかが好きなプリンあるよ」
「わざわざ買いに行ってくれたの?」
「うん、遊びに来てくれたからさ〜」
自分のためにコンビニにひとっ走りしてくれた姿を想像して、思わず笑みが溢れた。
「はい」
顔つきはもう男らしいのに、目を細めて笑うとやっぱりかわいくなる。
踏み出すのは怖い。それならこのままでいいのかもしれない。ふたりでいると楽しいし、幸せだと思える。
なんて思いながら、それでも触れたい気持ちはやっぱりあって。
それでも、どうやって触れたらいいのかわからない。
「、、どしたの?」
不思議そうに俺を伺う松倉。
そのビー玉見たいな目に見つめられると、自分の中の知らない部分が刺激されてるように感じる。
それは庇護欲とか独占欲とか、生まれて初めて感じる感情で。
「キスしても、いい?」
「へ?」
「キス、したい」
「、、いいよ」
俺はその白い頬を両手で包み、引き寄せるようにしてキスをした。
ちゅ、と音を立てて離れた唇。
キスはもう何度もしてるのに、毎回毎回律儀に顔を赤くする姿に、また理性がゆさぶられる。
こいつが悦ぶことを、なんでもしてあげたい。そう思ってしまう。
それは決して善人みたいな意味じゃない。