memo


◆思いついたままに [追記]

「作り帯は手軽なんだろうが見て直ぐ分かっちまう所が無粋。後、結構見たけどラメ加工?ありゃねぇわ無粋以前の話。頭にやたらデカイ花着けるのもあんまり頂けない、和装ってのはアクセサリーは着けねえもんだし。サンダルは足痛くされてもなんだから目ぇつむらんでもないがだったらそもそも着るなよと言いたい。歩き方もなあ、外股が多いのは着なれないせいなんだろうけど」
「煩いくどい暑い」
「暑いのは俺のせいじゃない」
 今日は、麓の駅前商店街主催の盆踊り大会。私は遊びに来たわけでは無く、竜爺の知り合いの酒屋の爺ちゃんが先日盲腸で倒れてしまい、その酒屋が出す缶ビールや缶ジュースの売店の売り子を急遽頼まれて此所にいる。一時期を思えば大分マシになったとはいえ、じわっとくる暑さにそれなりの人口密度。道行く人々を見て「浴衣、良いなあ」とぼやいた途端、隣の三郎はくどい批評を述べる始末だ。
 三郎がなんでいるかと言えば、お婆さん独りしかいない酒屋さん事態の細々とした手伝いなどもかねて男手もあった方が良いだろうという話になったからであり、それについて竜爺が呼ぼうとした利吉さんは大学の研究旅行にて不在、色々あって、私の人脈から三郎がやって来る事になったから、というか、三郎しかいなかった。
「三郎、一応バイト中。スマホ置きなさい」
「雷蔵から連絡来てないか見るだけだ」
「来てないでしょ」
「ああ、来てない」
「何処に行ってるんだっけ」
「司馬遼太郎記念館がメイン」
「渋いな」
「文芸部で合宿ってなんなんだよ」
 という訳で、三郎愛しの雷蔵君は部の合宿で不在。因みに他のいつもの奴等の動向といえば、勘ちゃんとハチは二人してちょっと遠くの野外フェスに泊まり掛けで行き、兵助は親戚の家へ帰省中と尽く不在だし、先輩達も色々と忙しそうで、結局直ぐに来れそうだったのは暇と孤独で死にそうと嘆いていた三郎だけだったのだ。
「三郎も何処か遊びに行けば良かったのに」
「独りでこのクソ暑い中外に出るくらいなら、クーラー効かせた部屋で暇をもて余す方を選ぶわ」
「とかいいつつ此方の誘い超快諾したよね」
「俺が暇だった事に感謝しろよ」
 一応アルバイトと言いながらも、二人して汗をだらだら流しながらだらだらとダベりながらの緩いもんだ。バイト代も子どもの駄賃程度。それでも構わず来てくれたのだからまあ、感謝はすべきかもしれない。
「すみません、ラムネ2つくださーい」
「あ、はい。200円です」
 浴衣姿の可愛い女の子二人連れ。私では無く、三郎に向かって声を掛けて、去り際もチラチラと三郎に目をやっている。去年まではお爺ちゃんが売り子してた店に若いお兄さんがいたら当然の反応だろうし、外面だけは超絶良いもんねこいつ。
 然しお嬢さん方、こいつは道行く浴衣女子を尽く扱き下ろしていた男やで。
「作り帯だな」
「まだ言うか」
 去っていく女の子達を見ながら尚もボソリと呟く三郎の肩をベシリと叩く。
「……お前は着ないの?」
 叩かれた肩を擦りながら、三郎はまたボソリと言った。
「え、なにが?」
「いや、さっき良いな的な事言ってただろ」
「ん?浴衣の話……?私が着ないのかって?」
「そう言ってんだろ」
 此方を見下ろす三郎を見返せば、しかめっ面に変わっていく。
「んだよその顔は」
「先程まで浴衣女子を散々ディスった口でよくもその様な話ができますねという顔」
 三郎は私の返事に、一瞬固まって、ハッとした顔をした。
「え。嘘、無意識だったの?」
「……いや、無意識というか悪口を言ったつもりは無くてだな」
「悪口じゃないって、あれがぁ?」
「…………普段、家で着物を見慣れてるせいで、すまん」
「いや、私に謝られても」
 三郎は深々と溜め息を吐いて、頭を抱えてしゃがみこんでしまった。だから一応、バイト中だってのに。
「そ、そんなヘコまんでも」
「うるせぇ」
 のろのろと上がった顔は暗い中でも赤いのが分かる。
「……自分のダブスタぶりに吐きそう」
「吐くなよ」
 広場の方から、月が出た出たと、陽気な歌声が流れてくる。提灯や屋体の光が明るくて夜空は月どころか星さえ見えず真っ暗だ。
「雷蔵君やら、皆が帰って来たら行こうよお祭り。探せば近場でどっかあるでしょ」
 しゃがみこんだ三郎から返事は無い。
「浴衣着てやっても良いよ。ハードル高いけど」
 黙っている三郎の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。じわっと熱くて、湿っていた。

<その他キャラ妄想> 2018/08/09(Thu) 23:44 コメント(0)

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