咄、彼女について
□稀人・其の三
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鏡子さんに呼び出されるのは随分久しぶりの事だ。
理由は聞かなくても分かっている。
俺が所属する学級委員長委員会は『お茶会委員会』等と揶揄されている。
俺や三郎はそう言われてもある意味事実だし気にもしていない。彦四郎と庄左ヱ門は少々不満に思う事もあるらしいけど。
「俺、前に言ったと思うけど、お茶会委員って呼ばれてる時のが寧ろ良いんだ」
意味は分かるかと聞けば賢い二人は神妙な顔で頷いた。
「といっても、今もお茶汲んでるがな」
三郎がそうおどけてみせれば、二人は少しだけ、漸く笑う。
学園長室には人数分の机、湯飲みが並んだ。
準備万端、後は待つばかり。
「勘右衛門。今日の顔触れはどうなっている」
三郎に聞かれて、俺は鏡子さんが指定した名前を頭の中で反芻する。
「えーと、中在家先輩、立花先輩、三年の伊賀崎、神崎、二年の川西、時友、一年の黒門、鶴町、夢前、後は俺、おまけにお前ら」
「おまけ言うな。ほぼ総出だな」
俺はそれに頷いて、少し怪訝そうな顔の彦四郎と庄左ヱ門に笑う。
「夢前に鏡子さん。彦四郎の場合は黒門か。この組み合わせとくれば分かるだろう」
「分かりますが……まさか、そんなにいるんですか」
庄左ヱ門が丸い目を瞬かせて言った。
彦四郎もぎょっとした顔をしている。
「いるんだねぇ、これが。鏡子さんがそういったものを呼ぶのか、それともこんなにいるからこそ鏡子さんがいるのか」
俺達には分からないものを『見て』『聞いて』『感じとる』者達。
俺がこの名列に並んでいるのは、少々特殊な理由である。
障子が開いた。最初に入って来たのは二年生二人組と、鶴町。
川西は少し青い顔をしていて、それ以上に血色の悪い鶴町は然し、何処か楽しげ、その後ろに続く時友はなんとも言えない微妙な表情だった。
「伏木蔵、何かあったの」
庄左ヱ門が聞けば、「いやぁあっはっはー」と頭を掻きながら笑う。
「こいつが明らかにヤバそうな所に嵌まって動けなくなってたんだよ」
川西は頭痛を堪える様なげんなりとした表情で言って、時友も苦笑めいた表情で頷いた。
「四郎兵衛がいなかったらお前も僕も、今頃、取り返しの着かないことになってたぞ」
「ふふふ、凄ぉいスリルゥ……」
「楽しむな!」
川西に小突かれた鶴町は頭を擦り擦り、「でもぉ、」と唇を尖らせる。
「避けれないくらいにあちこち沸き上がってお祭り状態じゃないですかぁ……いっそのこと楽しんだ方が得ですよぉ」
「左近の後輩は度胸があるんだなぁ」
「四郎兵衛、違うぞ。馬鹿なんだ」
川西のがっくりと落ちた肩を労うつもりで叩いてやれば、意地の強そうな目がきろんと俺を見た。
「鏡子先輩はまだ来られてないんですね」
「ああ。あの人の事だ、皆揃った頃にゆるゆるっとやって来るだろうな。まあ茶でも飲め。庄ちゃんの淹れた茶も美味いぞお茶汲み君」
「別に僕はお茶汲み係じゃないです」
そう言い返しながらも、川西と他二人は、ずるずると座り込んでお茶を飲み始めた。見た目より消耗している様だ。
「三郎、餅菓子まだあったっけ」
「ああ、あったが、人数分あるかどうか」
「切り分けりゃいけんだろ、取ってくる」
庄左ヱ門達が「僕達が」と言ったが、良いからと、俺は廊下に出る。
『餅菓子』も『庄左ヱ門を残す』も、全て鏡子さんの受け売りだ。
あの人は自分の影響力について自覚はあるのだろうか、と、ふと思う。
あるんだろうな、と、思う。
そう思えば、白い顔が脳裏で薄く笑う。
想像の中だと鏡子さんは何時も少しだけ愁いが漂っている様に感じる。
実際に目に見える姿は存外に能天気な事を知ってはいてもだ。
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