咄、彼女について
□高天、翔行き・其の一
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俺は気がつけば布団にぴしりと正座してそのぷわぷわ揺れる光るものを見ている。
光は、青かったり白かったり赤かったり、かと思えば緑がかったり、何色ともいえない。
それがちらちらとする様は奇妙奇天列そのものだけれど、何より奇妙なのはそれをちっとも恐ろしく感じない事だった。
「……なんだ、お前」
なんだこれ。でも良かったかもしれない。
然し、何故か呼び掛ける様な言葉になって、言ってしまえば、それが途端に生き物みたいに見えてくる。
チリチリチリ……
音がした。
小さな鈴が鳴ってるみたいな音だ。
俺はばっと部屋の中を見渡す。
部屋の中には布団と、文机と、灯りとりと、制服と。
音を立てそうなものは何にもない。
チリチリチリ……
また音がした。俺の目はその奇妙な光に戻る。
「……お前?」
まさかと思う半分で小さく呟いてみる。
すると次の瞬間、ひゅんと光るものは浮き上がるもんだから、俺はうおっと叫びながら仰け反った。
そしたら仰け反った肩の上に、ぴとりと光るものがくっついたのだ。チリ、と、控えめに音が鳴る。
いきなりの事に肩をぎゅっと竦めるが予想していた熱は無い。
「えぇ……。」
光るものはそこから動かず、俺の右肩の上でチリチリと鳴りながら光っている。
どうしよう。
なんか変な、多分生き物に、多分懐かれた。
どうしようどうしようと、俺は布団を畳むのも忘れて廊下に出る。
「どうしよう」
口にも出た。
青馴染みだす一歩前の夜明けの景色の中で、視界の右部分だけがちらちらと明るい。
そのまま歩き出せば、光るものも着いてくる。
やはり何故かちっとも恐ろしくはないのだが、どうしようと途方にくれてしまっている俺が一先ず向かうのは三木ヱ門の部屋だ。
三木ヱ門、三木ヱ門、と二回呼べば、薄く開いた戸からぼやんと微睡んだ少しブスくれた顔が覗く。
どうした、と掠れた声で聞かれて、俺は起こしてごめんと答えた。
そうやり取りしてる内に、三木ヱ門のぼやんと落ちている瞼がふと見開かれ、俺の右肩を見てぱちりと瞬きをする。
「お前、それなに」
「なんだろう」
三木ヱ門にも見えている事に幾分か安心した。
光るものもはチリチリと音を鳴らし、三木ヱ門はまたぱちりと瞬きをする。
「熱くないのか?」
「熱くない」
答えれば三木ヱ門はそうかと頷いてそれから二人黙りと其処に突っ立っている。
三木ヱ門の色の薄い眼が光に反射して揺れていた。
「……朝まで待ってみろ」
やがて、のろのろと三木ヱ門が喋り出す。
「うん」
俺はそれに稚児みたいな素直さで頷いた。
「朝まで待って、それで消えなかったら、お前、今日は休め」
「うん」
もう一度頷けば、三木ヱ門も頷いて、俺は踵を返して自室へと戻る。
背後でカタと戸の閉まる音がした。
それから閉ざした部屋の中まですっかり明るくなるまで待っていたけれど、光るものは相変わらず俺の肩やら部屋の中をぷわぷわと浮いているので俺は授業を休む事になった。
三木ヱ門が上手く言ってくれたのか部屋を訪ねてくるものもない。
光るものは部屋の中をぷわぷわゆらゆらと呑気に飛び回り、時折、文机や、俺の頭やらに止まる。
小鳥の様だ。と俺は思った。
そう思ったら掌が出て、おいでと言うみたいにゆらゆらと揺らしてしまっている。慣れとは怖い。
部屋の角をうろうろとしていた光るものはひゅんと飛んで来て俺の掌の上に留まった。
チリンと鳴く。
うーん、と俺が首を傾げていたら、戸の向こうで三木ヱ門の声がした。
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