咄、彼女について

□赤色の
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 金楽寺の和尚様の所からの帰り道。

 俺の手には、和尚様から学園長先生宛ての手紙があった。

 学園から金楽寺は其れほど遠い距離ではないけれど、一人でのお使いなんて初めてで。なんだか大役を果たしている様な得意気な気分で、俺は勇み足で山道を歩いていた。

 暫くそうしてずんずんと歩いていけば、ちらほらと罠の印が見える。入学してから必死に覚えた印を指差し確認しながら進んでいく。
 もう競合区域だった。学園は直ぐそこだ。

「なんだ、お使いか?」

 茂みを揺らしながら現れたのは、同学年の奴で、ぐりんとした丸い目が俺の手元を見る。

「それ、なに?」

「金楽寺の和尚様から預かった手紙だよ」

「ふーん」

 そいつはじろっと俺の持つ手紙を見て、いきなり俺の鼻っ面に手をぐいっと出してきた。

「ちょっとかして」

「は?駄目に決まってるだろ!!」

 ばっと手紙を引けば、後ろから引っ張られる感覚。

「あ!?」

 するっと指から抜けた手紙に、振り返って、そいつを睨む。

「返せよ!」


 次から次へと何なんだ。
 しかも、くのいち教室だ。
 関わると碌な事にならない。

 詰め寄る俺を無視してそいつは手紙をしげしげと眺めている。

「うん、」

 ぴしっ、と白い指が手紙の表書きを弾いた。

「ほら」

 差し出された手紙を奪い返し、俺は走り出した。

 これ以上足止めくらってたまるかってんだ!











「で、これがその時のご褒美に学園長先生から貰ったものだ」

「……はあ」

 俺は間抜けな声を出しながら、食満先輩が食堂の机に置いた小さな朱塗りの箱を眺めている。

「あの、それは鏡子先輩とどういう……?」

 思わず聞き返してしまった。

 先日の用具委員会の活動の時、手伝いに出てくれていた下坂部鏡子先輩の事について、俺は聞いた筈だった。

 この忍術学園に編入してから、色々と個性豊かと謂うか、一癖も二癖もある人達ばかりに囲まれている俺だが、その中でも鏡子先輩は割りに穏やかというか、くのたまは怖いと聞いていたけどそんな事無かったと安心していた矢先。

 あの時の、得体の知れない雰囲気を何と言い表したら良いのかは分からないけれど、鏡子先輩が保健委員会の人達を助ける為に何事かをして、それがあのタソガレドキの忍組頭と関わっている、その事だけは何となく分かっていた。

 失礼な事を言えば、怖いもの見たさな感じがある。

「鏡子先輩は何者なんですか」

 と、端的に、俺は用具委員長の食満留三郎先輩に伺ってみた訳だ。

 そこで急に聞かされたのは、先輩の一年生時の御使いの話で、正直面食らっている。


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