咄、彼女について
□迎えに来るもの
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今日も平和な忍の学舎、忍術学園の用具倉庫の屋根の上に不遜な猫の様な影を見た時、俺は思いっきり顔をしかめた。
「おい、鏡子」
「んぁ?」
んぁ?、じゃねえよ。
「降りろ」
「……なんで」
下坂部鏡子はその眠そうな、人を小馬鹿にしている様な垂れ気味の目で俺を見下ろした。
頬杖をつきながらごろりと瓦屋根の上で寝返りをうつ。器用な奴だ。
「お前が其処にいると騒がしくなんだよ」
後、運が悪けりゃ、一年生が泣く。そしてチビる。
「今日は黙ってる。今、あれが塀を越えるのを見た」
きゅう、と目を細めた鏡子は軽く伸びをして、音もなく俺の前に降り立つ。
その目線の高さはそう変わらない。女の割には背の高いのが忌々しいったらない。そしてにたりと口許を歪める。
「毒を持って毒を封ずるが如しだ」
「なんじゃそりゃ」
呆れたように仰け反る鏡子である。
「留三郎は物を知らないねえ」
お決まりの台詞だ。
何事かある度に、「留三郎は物を知らないねえ。」初めて会った頃から何度も耳タコな言い回し。
「知らなくて構わん」
そして、お決まりの返し。
お前が知ってる事は俺は知らないし知りたくもない
「伊作には調度良い相手ってこった。あれが来ちまったら並大抵のもんはぶるっちまって近づくこともできん」
しかし、知りたくなくても教えてきやがるのが、この下坂部鏡子という女で、
「今日は、首の無いのを五人も連れてるよ。怖や怖や」
何をしたんだろうねえ、とにたりにたりと笑うこいつの方が数百倍怖いと思うのが心底忌々しいのだ。
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