黄昏時忍軍忍組頭の嫁は少し無愛想
□黄昏時忍軍購買部の一押し賞品の噺
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黄昏時忍軍詰所にて、昼食に集まる出仕の若衆達の中へ遅れて登場した五条弾の顔色は傍目にも芳しくなかった。
「どうしたよ、五条。」
反屋壮太が、そんな青白い顔と少々慌てた様子でやって来た彼に声を掛ける。
「大変だ!」
「え!?」
「なんだなんだ?」
「幽霊でも出たか?」
「何を非現実的な……」
五条の周りに飯椀や膳を手に、若衆達が集まってくる。
五条は彼等をぐるっと見渡し、その眉間の影深く、小さな溜め息と共に、そっと口を開く。
「組頭の部屋で、」
「「「部屋で?」」」
「無惨にばらばらになり床に打ち捨てられた組頭人形と、」
「「「え?」」」
「組頭が悶え転がってる!!」
「「「は!?」」」
さて、話しは若衆達の困惑の表情が並ぶ、この数刻程前に遡る。
忍軍詰所の廊下を静かに歩く女がいる。
菖蒲の花を思わせるような佇まいが美しいその女の髪は、奇妙な事に、肩に着くか着かぬかといった程に短く切り揃えられている。
彼女、黄昏時忍軍忍組頭の妻であるさくは、この日、黒鷲隊の押津に所用があり、詰所を訪れていた。今は、その帰りである。
ふと、廊下の先の一室が騒がしい事に気付いたさくは、足を止め、緩く首を傾げた。
何事だろうか。
争う声でもなく、ただ、賑やかな若い男達の声でざわめく部屋の前を、横目に見ながら足早に通り過ぎようとした、が、
「一同、待て!奥方様だ」
「「「こんにちは!!!」」」
ああ、素通りは無理か、と、さくは軽く苦笑しながら姿勢正しく頭を下げる彼等に会釈する。
苦手というほどではないが、若衆達の勢いはいつも少し気圧される。
「ご機嫌よう、皆さん」
「奥方様も、ご機嫌麗しい様で!」
「よろしければ、奥方様も見ていらして下さい!!」
若衆達が促すのに、釣られ、さくは部屋に軽く足を踏み入れ、そこに並んでいるものに再び首を傾げるのであった。
「……これは、いったい、」
「黄昏時忍軍購買部です」
「購買……部」
其処にずらりと並んでいる、御守り袋、帳面、足袋、湯呑み等々。
「そして、私は、購買部営業部長です!」
椎良勘助の人懐っこい笑みと共に、ずいと眼前に差し出された人形。
それら全てが何を型どったものか言われずとも分かったさくは、ぱちぱちと目を瞬いた。
「……昆奈門様ったら、随分と可愛らしくなられて」
思わずその人形に向かってそう呟けば、反屋壮太は満足そうに満面の笑みを浮かべるのだった。
「因みに此方の御守りは尊奈門が作っております」
「尊奈門が、」
「はい。組頭が使われた包帯を小さく切って入れておりまして……奥方様、ど、どうされました!?」
さくが小さく吹き出して、肩を震わせながら、くつくつと笑いだしたのだ。
それは、控えめなものであったが、嘗ての彼女からすれば非常に珍しい姿であり、反屋を始めとする若衆達を僅かに騒然とさせた。
「いえ……あの方は、随分と慕われているのですね」
そう、笑いに滲んだ目元を拭いながらさくが彼等に笑みを向ければ、また僅かにどよめきが上がる。
「お、奥方様が笑われた!?」
「大変だ!何処か御加減が悪いのでは!?」
「……貴方達は私をいったい何だと思っているのですか。」
至極真面目な彼等の動揺に嘆息しながらも、無理もないかとさくは笑みを苦笑に変える。
そう直ぐには全て変わる訳でもなく、しかし、咲くこともなく摘み取られた蕾でも土に埋めれば花開く事もあるのだ。
彼女は、閉ざした戸から鍵を既に外している。
「私とて面白い事があれば笑いますよ」
その柔らかな笑みに、若衆達は顔を見合わせ、嬉し気に上気した頬で若者らしい快活で単純な笑みをさくに返すのである。
「ああ、そうだ!」
椎良がぱっと顔を輝かせ、広げた商品の向こう側の行李の山をあさりだした。
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