黄昏時忍軍忍組頭の嫁は少し無愛想
□干天慈雨
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件のさくの任務も終わり、雑渡の休暇は残すところ後二日の朝の事。
何時も通り、さくは日の昇る前に目を覚まし、腰回りにしがみつく雑渡をべりりと剥がして起き上がる。
朝食の仕度を終えて、雑渡を起こすべく寝所に戻る。
すると、雑渡は珍しく既に目を開けており、布団を鼻の下まで引き上げて天井を見上げているのだった。
「昆奈門様、お早うございます。朝餉の仕度が出来ておりますが」
「うん。……雨だね」
ごそりと、雑渡は、身体を横に向けて頬杖をつき、此方を見た。
「ええ、そうですね」
さくも開かれた障子から縁側の向こう側に目をやる。
天と地を縫い付ける銀糸の様な雨が、絶え間なく降り続いている。
数日ぶりの雨である。
朝方であるが、幾分か薄暗く、また僅かばかりの肌寒さを感じて、さくは立ち上がり、障子を閉めた。
雨音は、少しばかし遠くなる。
「さく」
さくがふりかえれば、ちょいちょい、と、招く手。
「雨だし、二度寝しよう」
「はあ……」
さくは僅かに首を傾げる。彼女には「雨だし」と「二度寝」がどうも繋がらないのだが、雑渡は構わずさくの腕を引く。
仕方なく、彼女は雑渡の横に身体を伸ばす。
「炭の匂いがする」
雑渡はさくの髪を一房掬い上げ、すん、と嗅いだ。
「朝餉の仕度で火を焚きましたから」
雑渡の指から落ちたさくの髪はぱさりと布団に広がる。せっかく身支度をしたというのに、と眉を潜めるさくに対してくつくつと雑渡は笑う。
「どうせ雨だ、何処にも行けない、慌てることもない」
「良く分からぬ理屈です」
そうこうしている内に、雑渡はまたすうすうと寝息をたて始める。
さくは、自分だけでも起き上がろうかとも思ったが、雑渡の手が自分の手を握った状態であったのと、雑渡の寝息があまりに穏やかなので無理に身動きをして起こすのも気が引けてしまい、諦めて、薄ら白く光る障子を見つめている。
雨が地を柔らかく叩く音、雨垂れ、隣からの規則正しく密やかな寝息、全てが徐々に混ざり合い、頭がぼうっとする感覚にさくもそっと目を閉じた。
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