黄昏時忍軍忍組頭の嫁は少し無愛想

□黒髪にかかる櫛のいと白きを
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 黄昏時忍軍の忍組が一人、五条弾は、少々浮かれていた。

 家路へと着く彼は、ともすれば軽くなる足取りを(いさ)めながら平淡を装おってはいるが、何時もは潜められがちな眉間の皺も薄く、表情の明るさは隠しようがない。

「やあ、五条。なんか良いことでもあったかい?」

「ぉわっ!組頭っ!!」

 眼前の樹上から逆さ釣りに現れた上司に五条は文字通り飛び上がる。

「ああ、そうそう。今度のお前達の仕事だけどね、」

「は、はい!」

 仕事内容から言って、恐らくは、羽目を外すな等といった注意だろうと、身構える。
 が、上司から紡がれる言葉は、そんな五条の予想の、斜め上を越えた。

「私とさくも着いていくから」

「はい!……え」

「楽しみだねえ。お祭り」

 驚きに目を見開いた五条の視界に、上司の隻眼がにやりと歪むのが見えた。
 すっ、と音もなく上司はまた樹上へと消え、気配も消える。

 呆然と立ち尽くす五条の頭上では、蝉時雨がかしましく夏の青臭い空気を揺らしていた。















「つまり、それは、国外の諜報任務でございますね」

 夕涼みの縁側で、妻であるさくのすっぱり切り捨てた弁に、雑渡は苦笑めいたものを目に浮かべる。

「まあ、そういう事なんだけど。」

 最近、勢力を伸ばしてきた近隣国の、そこで催される祭りに乗じての状況視察、及び、敵対するか、同盟を結ぶか、今後の関係をどうするかの考察。

「灯籠がね、沢山飾られて綺麗なんだって」

「ですが、五条殿と、尊奈門の任務なのでしょう?」

 そう、元々は忍軍の五条弾と、諸泉尊奈門に任されていた任務である。
 そこに、自分と、さくも同行すると、雑渡が言い出したのだ。

「彼等二人で充分に思いますが」

「うん。任務は五条と尊奈門。私とさくはお目付け役と祭り見物」

 楽しそうにそう言う雑渡に、さくの眉がわずかに潜められる。

「ね、行こうじゃないか。君の足ももう良くなったのだし、こんな機会でもないと二人で遠出なんてできないし」

「……承知しました」

 雑渡が言い出すと聞かない性質であることをさくはすでに存じている。
 溜め息を飲み込んで頷けば、雑渡は嬉しそうに目を細めるのだった。


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