黄昏時忍軍忍組頭の嫁は少し無愛想
□忍組頭は癒しが欲しい
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「……良い天気だよねえ」
「…………そうですね」
「こんな良い天気に部屋の中にいるなんて勿体ないよね」
「…………そうでしょうね」
「今日ね、実は忍術学園の保健委員会の子達が薬草取りがてら川遊びに行くんだって」
「…………そうですか」
「……ねえ、さく」
「駄目です」
黄昏時忍軍忍組頭、雑渡昆奈門は部屋の入り口に背筋正しく座る無表情の、己の嫁に向かって大袈裟な溜め息を吐いた。
「ねえ、そろそろ、若い衆達の鍛練を見てやる時間なんだけど、」
「今日は陣内左衛門が見るそうですよ」
「厠に、」
「つい今しがた長々と行ってらしたでしょう」
「陣内!私のお嫁さんが私に優しくない!!」
「当然でございましょう」
雑渡が仕上げた仕事を確めながら山本はきっぱりと切り捨てた。
「さくちゃん。すまないね。見張り役なんて頼んでしまって。この人はすぐふらふら我々の目を掻い潜っていくのだから」
山本の労いの言葉にさくはこくりと頷いた。
「構いません。明日で納期のあれをあれしないとあれがあれと伺ったものですから、」
「凄いざっくりだね……」
のろのろと筆を動かしながら雑渡はまた溜め息を吐く。
「この間は手早く終わらせておられたではありませんか」
山本がてきぱきと確認する手を止めず言えば、雑渡は肩をひょいとすくめる。
「あの時は調子が良かったからね。気が進まなけりゃさっぱりだ」
うんうんと唸りながら、文机と向き合っていた雑渡であるが、しばらくしてぱっと表情を明るくする。
「あ。そうだ!」
にやりと笑う雑渡にさくと山本は顔を見合わせた。
その互いの表情は、さくはお馴染みの無表情こそすれ、また録でも無いことを言い出しそうだとその顔に大きく書かれていた。
「さく」
「はい、なんでございましょう?」
「ご褒美を用意してよ」
「……は?」
楽しそうに目を細める雑渡にさくは首を傾げながらわずかに眉を寄せた。
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