黄昏時忍軍忍組頭の嫁は少し無愛想
□洗濯日和
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昨日は仕事の邪魔になるだろうと思って家に戻ったさくであったが、やはりどうにも暇になる。
日の昇らぬ内に起きて、例によって今朝も抱きついている雑渡をべりっと剥がし、朝食の仕度をしてから、文句たらたらの雑渡を起こし、朝食を食べて、ごろごろと行儀悪に横になっている雑渡を横目に布団を干し、床の掃除をし終わったら雑渡を詰所へと送り出し、その後は服の洗濯をした。
始終横でゆのが私がしますと言い続けていたが、もう子どもでなければ御大尽の姫様方でもないから気を遣うなと言えばゆのは不満げに肩をすくめる。
「それでは、何のためにこのゆのが来たのやらではございませんか!」
「まあ、それもそうなのだけれど。でも、私にとってはゆのがそこに居てくれるだけで安心できるから」
洗濯の量は少ない。さくもそうではあるが、雑渡は手持ちの服がかなり少ないのだ。
ゆのが有無を言わさず手伝いだした事もあり、四半刻も掛からず全てを干し終わるまでに至った。
さあ、いよいよ午前はすることがない。
「さく様、詰所に行かれてはどうでしょうか」
「え。いや、仕事のお邪魔に、」
「出入りは自由と言って下さったのでしょう?留守はゆのが預かります。組頭様の奥方として、詰所の方達のお手伝いを致しますのも宜しいではございませんか」
「そういうものかしら」
「そういうものです」
「そう……」
奥方ではあるだろうが、正式に雇用されているくのいちではない(そもそもそういったくのいちは黄昏時にはおらず、殆どが有事の際のみの協力者程度の扱いではある。)ので、多少気は引けるのだが、やはり何かしら立ち働いていないと落ち着かないので取り合えず、向かってみることにしたのである。
「旦那様によろしくお伝え下さいまし」
ゆのの笑顔を背中に、さくはふとわずかに眉を寄せる。
「旦那様ね……」
未だに閨を共にしていない男を旦那と思って良いものであろうか。
いや、閨自体は共にしているが、まあ、抱き枕の様な扱いである。
雑渡のさくに対する言動からは嫌われている伏は塵ともないが、女として見られているかというと、
さくは大きな溜め息を吐いた。
例の「賭け」にしたって前途多難というか、そもそも、その様な賭けを持ち出せる雑渡の精神を思えば、この賭けはさくに勝ち目はないような気もした。
だからといって自分が雑渡に惚れるかといえば、それにも首を傾げてしまう己がいるのである。
そんなことを黙々と考えている内に、詰所の前まで辿り着いた。
「あ。奥方様。お早う御座います」
「…………」
「あの?」
「ああ、私か」
詰所に着いて掛けられた奥方様という呼び声と自分が結び付いていなかったのである。
「すみません。お早う御座います」
「「「「お早う御座います!!」」」」
ほら。これでは、やはり先が思いやられる。
そう思いながら頭を下げると、周りから一斉に声が飛び出し、少し驚いた。
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