黄昏時忍軍忍組頭の嫁は少し無愛想
□解せぬもの
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黄昏時忍軍詰所の忍達の朝、はいつも掃除から始まる。
掃除とは心身の鍛錬であるというのが、その意図であった。
では、組頭のあの家の惨状はどうなのだという意見もあるが、それは一人の忠臣の威圧により皆腹の内に納めている。
そんな朝のいつもの掃除風景である。
椎良勘介は二十往復めで自分の割り当てられた廊下の拭き掃除を終わらせた。
朝日に輝く磨きあげられた廊下を見やり、彼は満足気に頷く。
「おーい、大変だ!来るぞってか来たぞー!!」
「おいこら!!反屋!!!磨いたばかりの廊下だぞ!?その汚ない足ででけでけ走るんじゃねえ!!!」
椎良の苦言も無視するがごとく、反屋壮太が箒を片手で走ってくる。
「お前、それ。庭掃除用の箒じゃないか。持ち込むんじゃないよ」
部屋の引き戸の隙間からはたきを片手に五条弾も呆れた声でそう言った。
普段潜められがちな眉のしわをさらに深めている。
「ああ、悪い。でも、大変なんだ。来たんだよ!!」
「何が」
「おなごが!!」
「「何だって!?」」
二人はばっと興奮気味に反屋に顔を向けるが、またふうっと興醒めしたかのように顔を背けた。
「……てゆーか、それって組頭の奥方だろ」
「目出度い話だけど、俺達がちょっかいかけて良い相手じゃないしな」
「でも、凄い美人だぞ。近くで見たくないか?話すぐらいしたくないか?」
「「「「したい!!」」」」
部屋、廊下、庭、屋根、あちらこちらから若い忍達が顔を出し叫ぶ。
「おい、お前ら。今は掃除中……」
「そんなんもう、あと息三十くらいで終了時刻だろ。見に行こうぜ、組頭の部屋にいるみたいだぞ」
五条の注意をさえぎった反屋の一声でわらわらと男共は動き出した。
「…………」
「なんていうか、うちって色の術にすげえ弱そうだよな……」
「女っけが無さすぎるのも問題だよ。もう少し、くのいちを雇っても良いと思うんだけどね」
五条は溜め息を着きながら、はたきを懐にしまい、廊下に歩みでる。
「あれ?五条。行くのか」
「そりゃあ……それとこれとは話が別だからなあ」
「……それもそうだな」
椎良はにやりと笑い。桶の水を縁側に流してから、五条に続いて組頭の部屋へと歩き出した。
※:「あと息三十くらい」……「あと息を三十回するくらいの時間」って感じです。あと数分的なニュアンスだと捉えてください。
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