黄昏時忍軍忍組頭の嫁は少し無愛想

□お嫁さん一日目
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※しょっぱなから初夜の話です。致してませんが人に寄っては裏っぽく感じるかもしれません。物語の流れ上必要な部分なのでご容赦下さい。苦手な方はいっきにスクロールか下へ進むボタン連打で読み飛ばして次ページへお進みください。
















 黄昏時忍軍忍組頭の雑渡昆奈門と結崎家が長女、結崎さくが祝言を挙げたその日の夜。

 さくは寝巻きを身に付けて布団の上に座している。
 相変わらず無愛想な無表情であるが別段怒っている訳ではなく、これが彼女の素であり表情の基本型であるのだから仕方無い。

 かたりと音を鳴らして障子が開き、雑渡が入って来た。
 寝巻きの襟元はまだ寝起きでないというのによれていてだらしがない。

「やあ。今晩は」

 三つ指をついて頭を下げるさくの前に雑渡はどさっと座る。

「顔を上げて」

 ゆっくりとさくが顔を上げると雑渡はにこりと笑う。それはまるで年端のいかぬ子供のような表情であり、初夜の男のものには似つかわしくなかった。
 それでありながら彼の手はそっとさくの頬と襟元に伸ばされ、ゆっくりと押し倒される。さくは静かに目を閉じた。






 そこから先の行動をただ待っていたさくであったが、妙な事に何も起きない。
 どうしたことかと、そっと薄く目を開けた瞬間、

「ぬあ」

「うーん。止めた」

 頭をいきなりぐしゃぐしゃと撫でられる。
 雑渡はひとしきりさくの頭をぼさぼさと撫でた後、ばたりと布団にうつ伏せになる。

「君、本当にくのいち?ここまで興をそぐ女は素人でも珍しいよ。せめて嫌がる素振りや恥じらう素振りぐらいないものかなあ」

 頬杖を着きながら、さくを見やる雑渡は大袈裟な溜息をついた。

「見た目は本当に綺麗なのにねえ……私はお人形を抱く趣味はないんだよ」

「……申し訳ありません」

 さくは身を急いで起こし頭を下げた。
 彼の失望は離縁を連想させた。どうでもよい体裁とはいえ、いくらなんでも直ぐに離縁されてしまうのは問題ではないかと思い少々焦る。

「だから、怒っている訳ではないよ。君が私の事など好きではないことぐらい分かっているから」

「は。それは……」

 言葉を詰まらせるさくに対してごろごろと寝転びながら雑渡は淡々と言葉を続ける。

「もっとも、それは君に限った事じゃない。今まで集まってきた娘さん達は皆、組頭の奥方という地位の為に来てくれていたんだから、そうでもないとこんな容姿の男を、ねえ?」

 雑渡は包帯で隠された顔の片側に手をやりながらにやりと笑う。

「あ、因みに私の名誉の為に言っておくけど不能にはなっていないよ。単に今やる気がでないだけだから」

「はあ……」

 戸惑った反応しかできないさくを気にする風でも無く、雑渡は身体を起こして彼女に向き直る。

「あと、私もまだ君の事を好きになっていないし」

 さくはその言葉に目を見開いた。私を自ら選んだ男がいったい何を言い出すのだ。

「では、何故私を御選びなさいましたか。結崎家と私の噂はあなた様のお耳にも入っておられる筈です。何故わざわざ、私であったのですか?」

「ああ、やっと表情が出てきた。それと今日で一番良く喋ったね」

 雑渡は少し声を荒げたさくを優しく見やる。

「結崎家における君の立場やあの家のごたごたはうっすらと聞いたことはあるよ。でも、勘違いしないように、私は同情で女を愛せる程優しくはない。君を選んだのは必然的なものだ。ある人とした約束に関わる事なんだ。私は君となるべくして夫婦になったんだよ」

「……はあ、」

 さくは何とも言えぬ気持ちで雑渡を見る。

「まあ、こんな愛想のない娘だとは私も思っていなかったんだけど」

さくのぼさぼさになった髪を整えながら雑渡は苦笑めいた笑みを浮かべる。

「さて、どうしようかね。夫婦になったからには相思相愛になるのが望ましいのだけれど」

髪を整えた手が今度はさくの頬を撫でる。それは優しくはあったが、男が女にするような艶のあるものでなく幼子を慈しむような手つきだった。

「そうだなあ…………さく。私と賭けをしようか?」


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