黄昏時忍軍忍組頭の嫁は少し無愛想

□ようこそ、お嫁さん
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「おっ。出てきた、出てきた」

「おい、あの娘結構可愛いぞ」

「あっちもなかなか」

「あれは良い尻をしてるな」

 忍軍詰所の塀や樹の上にはじょろじょろと忍者隊の若衆達が集まり、門から出てくる女達を観察している。

 若衆の一人である五条弾も同じく塀に座りながらその様子を横目に溜息をついた。



 まだまだ若い盛りでありながら男所帯で鍛練と任務ばかりであればこうした華やかさに色めき立つのも無理はないだろう。
 しかし、己を含め大の男共がこの様に鼻息荒く集まる姿は少々見苦しいと感じざるを得なかった。


「良いよなー。組頭……」

「選り取りみどりだよな」


 若衆達は一斉に嘆息する。

「俺もちょっとくらい女の子と遊びたい!」

「恋人が欲しい!」

「お前ら、もう少し声を押さえろ、高坂殿に聞かれたらどやされるぞ」


 五条の注意を聞いているのかいないのか、男共は再び女達の品評会に興じだす。

「あれっ!?」

 隣に立つ反屋壮太が素頓狂な声を上げる。
 そういえば、こいつが一番達が悪かった。と五条は普段からしかめがちな顔をさらに渋くする。
 反屋は見ているだけでは飽きたらず、勇猛果敢にも女達に声を掛けにいくのである。周りの若い衆達もそれを囃し立てるものだから奴もますます調子に乗る始末だ。
 まあ、全てすげなくされてはいたが。

 隣をじろりと見ると、反屋は不思議そうな少々慌てた様子できょときょと門から出てきた女達に目をやっている。

「どうした」

「あの娘がいないんだよ」

 ほら、最後に入れたあの美人が。と指で示される先を見ると確かにもう今日の志願者は全員出ている筈だか、ただ一人、結崎の女がいない。

 おや、と五条も怪訝に思った瞬間。背後から怒声が飛んできた。


「お前ら、何をやっている!!」

「げっ!?」

「こ、高坂殿……」

 周りを見ると、若衆達は自分たち二人を残して皆ずらかっていた。
 出てこない娘に気を取られた二人だけが近づいてくる組頭の忠臣に気がつかなかったのである。


「いや、少々、観察を……」

 反屋が頭を掻きながら答える。
 忠臣、高坂陣内左衛門はじろりと二人を睨み付けたが、そのまま説教を始めることなくふっと息をついた。


「そんな暇があるなら、城下と里に貼り出した御触書を片付けてこい」

「え?」

「組頭の奥方選びは今日で終いだ」


 高坂は少し腹立たしそうにそう吐き捨てた。


「あの、まさか……?」

 五条の問いに、高坂はぎっと眉を釣り上げる、ああ、藪蛇だったと五条は後悔した。


「……組頭は奥方を選びなされた」

 上司の吉報を告げる忠臣とは思えない様な表情で高坂が呟いた。

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