いしゃたま!

□夏が訪れ彼女は
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「雑渡さん……」

「まあ、最近暗いのは保健委員さん達だけじゃないけどね」

 雑渡さんの飄々とした声に対して僕は苦笑を浮かべる。


 無期限の休職。
 それはある意味では希望だった。僕達は何時か、ひょっとしたら彼女は戻ってくるんじゃないかと期待し続けている。

 そして、期待が少しずつ薄くなり、それでもどうすることもできず、彼女の存在は僕達にとって、過去になっていく。

 それが、辛く、何とも言えず寂しいのだ。


 雑渡さんは、相変わらずちょくちょくと僕達を訪ねてきてくれる。
 この日もお菓子を片手に部屋にずかずかと入り込んできた。

「はい。水饅頭」

「わあっ、こなもんさん。ありがとうございます」

「すみません、何時も。この間だって、水無月を下さったのに」

 忍術学園として、外部の人間を易々と入れるのはあまり誉められた状況では無いのかもしれないけれど、今はこの無遠慮さが有り難い。
 少なくとも、乱太郎や伏木蔵の気持ちは紛れる。


「ふふ。遠慮無く頂いてくれ。お茶を淹れてくれるかな?」

 雑渡さんはふっと目だけで笑う。

「有難うございます。左近、お願いできる?」

「はい」

 左近が立ち上がり、湯飲みを取りに行く。


「ああ、左近君。七人分頼むよ」

「分かってますよ……って七人分?」

 左近が怪訝な顔をする。それは僕も同じだ。
 えっと、僕、数馬、左近、乱太郎、伏木蔵、雑渡さん……


「六人ですよ、雑渡さん」

 乱太郎がきょとんと首を傾げた。

「もしかして、しょせんそんなもんさんか、タソガレドキの誰かが他に来てるんですか?」

 伏木蔵の問いに、雑渡さんは緩く首を振る。



 僕は、その瞬間、ほぼ無意識の内に立ち上がった。

「伊作先輩!!?」

 驚く皆にお構いなしに、廊下に飛び出る。

 予感で張り裂けそうな心臓が、そこに立つ人物に一瞬止まった気すらした。








「なんで……」


 僕の口から勝手にこんな言葉が漏れる。
 再会の第一声にしては間抜けすぎるそれに、目の前の、真っ直ぐに光る目が遠慮がちに細められた。









「「「ちどりさん!!!!」」」

 僕の後ろから飛び出してきた乱太郎、伏木蔵、左近が、彼女に勢い良く駆け寄って力の限り抱きついた。


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