いしゃたま!

□牙、そして、鬼達が笑う
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オリジナルキャラ、暴力、流血表現注意





 東堂(とうどう)が揺らめかせる、その刃よりも鋭く冷たい眼差しが私達を見下ろしていた。


「お前は……タソガレドキの雑渡だね」

 東堂がにこりと艶やかな笑みを浮かべると、雑渡さんは音もなく、私達の前に、東堂から隠すように降り立った。

「本当に勿体ないねえ、その顔。なかなかの美丈夫を火に焼いてそうも醜くしちまうなんてさ」

 東堂は顎に手を当てながらふうとため息を着いた。

 雑渡さんが、ふん、と鼻で笑うのがその墨染めの背中越しに聞こえた。

「そうか、そんなに醜いか。だが、これが私の面相だ。生まれてから今まで育ててきた私の顔なんだよ。自らの時を止め、真の姿を偽り続けたお前には到底分からんだろう」

「ああ、分かりたくもない。さて、何をしに来たのかな」

「タソガレドキ忍軍忍組頭として、ヨイヤミ忍軍忍組頭を倒しに参った」

 東堂が、目を有らん限りに見開き、弾かれたように笑い出す。

「愚かな、今更あの女の仇討ちのつもりかえ!?」

「どうとでも言え」

「待てっ!!」

 東堂と雑渡さんの間にもう一つの影が舞い降りた。

「……日ノ村さん!」

「雑渡!この方への制裁は、私に任せてくれ!忍術学園の諸君も手出しは無用だ!ちどり様を頼む!!」

「言われなくとも」

「ま、そいつの退路ぐらいは絶たせてもらうがな」

「皆さん!!」

 いつの間にか私達の回りを学園の皆が取り囲んでいる。

「留三郎!!ヨイヤミ忍者は!?」

「ああ、何とか全員ふんじばったぜ」

 良く見れば、皆の格好はあちこちに傷があったり、服が破れたりしていた。

「伊作、ちどりちゃんも、そんな顔すんな!こんなのちどりちゃんが無事な事に比べれば掠り傷みたいなもんだ!!」

 七松君がにっかりと笑えばうんうんと皆も頷く。

「さあ、忍術学園の包囲網だ。逃げ場はねえぞ!東堂藤ヱ門!!」

 潮江君がぎろりと睨み付けるが、東堂は相変わらず涼しい顔をしている。


「……貞明(さだあきら)

 東堂は美しい笑みを浮かべて日ノ村さんを見た。
 彼の肩が僅かに震えたのが見えた。


「はて、私を倒すなど奇妙な事を言うね。お前に十六年間、手取り足取り戦いの術を教えてやったのはこの私じゃないか。お前の動き方、癖、全て手に取るように分かっているこの私に、お前が勝てる筈はないよ」


 東堂は憐れむかの様に大袈裟に眉を潜める。

「愚かな可哀想な貞明。今なら許してあげよう。もう一度私の元に戻っておいで」

 細く白い首を傾げながら腕を広げる東堂を日ノ村さんはじっと見つめていた、が、やがて、静かに話し出した。




藤ヱ門(ふじえもん)様は、勘違いをなされております」

 顔は見えない、でも、私には、日ノ村さんが笑っているように思えた。


「確かに、十六年間忍の術を私に教えたのは貴方だ。だが、その前に十八年を掛けて私に刀の術を、真の戦い方を教えたのは…………私の父にござりまする」

 音も無く、静かに白刃が抜かれる。

「……父上。これより、今一度、アケガラス城侍大将の御名を借りることをお許し頂きたい………我は、日ノ村光治郎貞明(ひのむらこうじろうさだあきら)。お夕様と天に変わり、東堂藤ヱ門、貴様を討とう!!!」


 東堂の目がすうっと冷えた。

「ああ、そう」

 抑揚のないその言葉と共に、東堂は猛然とした風に変わり、日ノ村さんに襲い掛かる。

 重たい金属音と共にぶつかり合う二つの影。

 私達は固唾を呑んでそれを見守っていた。
 善法寺君の腕を握ると、固く腕が回され抱き締め返される。

 身体を大きく反転させた東堂は指を食わえ、鋭く鳴らす。

「わっ!?」

 善法寺君がばっと私を突き飛ばした。

 ギインッと耳を打つ音と共に、善法寺君が苦無で刀を受け止めている。
 刀を持つのは南条芳光(なんじょうよしみつ)だ。

「……この人に手を出してみろ…ただじゃおかない」

 地を這うようなその声は、善法寺君から発せられているのが信じられないほどの怒気を孕んでいる。
 南条が僅かに怯むのが見えた。




「ちどりさん、僕達の後ろへ!」

 左近君、乱ちゃんが私の前に回った、その瞬間、


「ちょっと悪いね伊作君」

 不意に聞こえたそんな声と共に、南条が横っ飛びに吹っ飛ぶ。

「お前の相手は私だよ。南条芳光」

 雑渡さんが棒手裏剣を構えて南条に飛び掛かっていった。

「よっと」

「うぐっ!?」

 雑渡さんは、軽く捻るように南条の動きを取り押さえた。


「なっ!!そこまで、腕を上げたのか!!?」

「阿呆め。あれから何年が経ったと思っている。お前は、無為に過ごしたようだがな……貞明殿。そちらは頼みましたぞ」

「雑渡!貴様!!」

 東堂の顔がぎりっと歪んだ。

「東堂。お前の言うとおり、人の心は確かに鬼を産み得るだろう。だが、その鬼を討つのもまた人であるのだ。それと……余所見はするもんじゃない」

「がっ!?」

 日ノ村さんが東堂を蹴りあげる。避け切れなかった東堂の体勢が崩れた。


「っこの出来損ないめが!!もう一度その牙へし折ってくれよう!」

 東堂はそれでもなお、日ノ村さんに襲い掛かろうとする。




「雑渡昆奈門!!」


 日ノ村さんが高らかに叫んだ。



「そなたへの長年の非礼はこの一太刀にて詫びよう!!」




 月光に一際煌めく白き刃。




「東堂藤ヱ門!これが折れたとてなお尽きぬ私の牙だ!!!」





 慚。

 と、空気の切り裂かれる音、

 飛び散るのは、赤い飛沫。

 東堂はその美しい顔を歪めて肩を押さえていた。


 ばたりと、地に落ちたもの。


 それは、東堂の腕だった。


「東堂様!!」

 南条の驚愕した声が響き渡る。

「貞明あああ!!貴様あああ"あ"あ"!!!」

 獣が唸るような声が東堂の喉から漏れる。

 ぐっと、東堂の足が地を蹴る。まだ動けるのかと思った瞬間。

「ちどりさん!!!!」

 乱ちゃんの悲痛な叫び声が耳をつんざいた。






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