いしゃたま!
□そして来たりし者
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オリジナルキャラ注意。
某日の夜、ヨイヤミ領はアサヤケ山にて突如始まった奪還戦に関わっていた勢力は、五つであった。
ヨイヤミ、ウシミツ、ドクタケ、タソガレドキ、そして、忍術学園。
その忍術学園側の作戦の長たる、六年は組の善法寺伊作は、廃寺とその周辺で戦闘が始まったその時もなお、廃寺の裏手、崖の下に待機の形を取っていた。
「先輩方、派手にやってらっしゃるみたいですね」
保健委員会で善法寺の直属の後輩である川西左近は彼の隣でそっと首を巡らせる。
「伏木蔵なら、凄いスリルゥって言うところですね」
最年少の猪名寺乱太郎がそう言った言葉は、状況によれば笑いが起こるところであったが、三人は皆一様に堅い表情で崖の上を見つめていた。
彼等が待機するに至った事については、今より四半時足らず前に遡る。
火薬委員会三名と保健委員会三名は背後から現れた男達に驚愕を隠せなかった。
「ドクタケ忍者隊が何故此処に!?」
火薬委員会の五年生、久々知兵助は寸鉄を構えながら問う。
「安心したまえ、まっこと不本意極まりないが、今回のみは敵ではない」
そして、ドクタケ忍者を率いる、首領、稗田八方斉は、苦々しい顔をしながらも確かにそう言った。
「どういうこと?」
「いつも悪いことばっかしてるドクタケ忍者隊がどういう風の吹き回しだ!冷えた麻婆豆腐!」
「豆腐!?乱太郎、どこに豆腐が、」
「八方斉じゃ!!ふん。我々とてしがない城勤め。殿のご命令とあらば、どんなに不本意でも従わねばならぬのだ。それが、社会の厳しさというものじゃぞ忍たま諸君」
尊大に胸を反らす稗田の後ろで、部下の忍者達は「別に俺らは不本意じゃないけど……」といった事をぶつくさ呟いていた。
「お殿様が……成る程、そういうことでしたか」
善法寺はあのドクタケ城での一件を思い出しながら合点がいったと頷く。
「え?伊作先輩。納得しちゃうんですか?」
驚いた顔をする川西や周りの後輩達に彼は柔らかな笑みを浮かべた。
「ああ、大丈夫だよ。この人の言うとおり、今回だけは彼等は味方だ」
そして、稗田に向き直る。
「ご協力感謝します」
「うむ。礼儀正しい若者は嫌いではないぞ。さて、先ずは提案だが、廃寺については我々に任せて欲しい」
「それは……、」
善法寺達は戸惑いを見せる。
然し、そこにドクタケ忍者の風鬼の声が被さってきた。
「俺達の狙いはちどりちゃんだけじゃない。ウシミツとヨイヤミ連合軍を叩き潰す事も命令の内にあるんだよ。その為に、廃寺にいるであろうヨイヤミとウシミツの組頭を倒したいわけ」
「あいつらが手を組んでいるといろいろとやり抜くくてな」
「なかなか尻尾を掴めなかったんだよな」
「タソガレドキへの恩着せにもなる」
風鬼につられてドクタケ忍者達は次々とそう言った。
稗田は咎める様に大きな咳払いをする。
「全く。べらべらと此方の事情を話すでないわ。……まあ、そういう事だ。どっちにしろあれは忍たまには危険すぎる。ここは大人に任せておきなさい。」
「は、はあ。」
彼等はそれでも決めかねる様に顔を見合わせる。
「君達は此方に残っていなさい。我々が三反田ちどりをここに連れてきてあげよう。君達は彼女を連れて、学園に帰るだけでいい。」
勝手に話を進め出す稗田に善法寺は慌てて、手を拡げる。
「ちょ、ちょっと待って、」
「よろしいでしょう。ただし、残るのは保健委員会の三人だけです。」
不意に聞こえた凛とした声。
茂みから現れたのは六年い組、立花仙蔵と彼が率いる作法委員会の二人、そして、生物委員会の二人であった。
「仙蔵、どういうこと?」
「稗田殿。我々忍術学園の生徒はタソガレドキ忍軍と共に陽動を兼ねて周辺の敵を排除致します」
「うむ。此方からも何人か貸してやろう」
「お願いします。よろしければ保健委員会のもっぱんを幾つかお使いください」
「仙蔵!!」
善法寺は立花の肩を掴む。立花は静かな相貌を彼に向けた。
「伊作、私達に任せろ」
「悪いけれど拒否する。僕はこの作戦の長だ。僕も廃寺に行く」
「駄目だ」
「何故だ!?君は、僕が不運だから、非力だからと見くびっているのか?僕がどれだけ彼女を……!!」
「だからこそだ。伊作」
普段から穏やかな善法寺の滅多と見れない激昂に対して、立花仙蔵は静かに、胸ぐらを掴むその腕をそっと外した。
「お前が彼女の事をどれ程心配しているか、私達が分からない筈があるか。しかし、よもや、ちどりさんがお前の目の前で危険に晒された時、お前は冷静な判断ができるのか?」
「っ、それは……」
善法寺は言葉を詰まらせる。
立花は彼の肩に手を置いた。
「伊作。そして、お前が彼女を助けるべく危険な目にあったとしたら、一番傷つくのは彼女だ」
「…………。」
「怪我をするな。これがお前の指示だろう。私達を信じろ」
善法寺は黙っていた。立花を見ると力強い頷きが返ってくる。周りを見る。後輩達も皆同様に頷いた。
「……分かった」
唇をぎゅっと噛み締めながら、善法寺は同意を示した。
「さて。悪いが、左近と乱太郎。お前達も此処に残れ。伊作の側にいてやってくれ」
「はい」
「分かりました」
見張りか、と善法寺は眉を潜める。
「そんな顔をするな、伊作」
立花は漸く、優しい笑みを浮かべた。
「先程のお前の言葉を返すが、私は、私達は決してお前を軽んじて等いない。守るべき者がいる時のお前の強さを私は良く知っているぞ。では、行くぞ、お前達」
そうして、善法寺は後輩達を引き連れ森の奥へと去り、ドクタケ忍者達も茂みを走り去っていった。
そうして、彼等は気を揉みながらも、彼女の無事を、仲間を信じ、こうして只じっと待ち続ける。
「伊作先輩。廃寺の方が」
「ああ」
猪名寺の声に、善法寺は頷きながらもその眉間に深い皺を刻む。
やおら崖の上、廃寺の方角が騒がしくなった。
怒声と微かな叫び声が彼等の耳に届く。廃寺の様子は切り立つ崖と鬱蒼とした木々に阻まれ、確認することは出来ない。
「先輩?」
善法寺は立ち上がった。
それを留めるように不安気に袖を引く二人の後輩に苦笑いを向けた。
…… 大丈夫だ。僕は、皆を信じている。だけど、
善法寺は大きく息を吸った。
…… こんなこと、僕は本当に忍者に向いてないかもしれない。……それでも、僕は、やっぱり、
喉をありったけ拡げて、口を開く。
……貴女の為に、何も出来ないなんて嫌なんだ!!
「ちどりさああああああああん!!!」
周囲の空気が、善法寺のありったけの叫びに震える。
二人の後輩はその叫びに耳を押さえ目を丸くしていた。
そして、
崖の縁の茂みが一角。
がさり、と揺れた。
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