いしゃたま!

□ではいざ参る
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オリジナルキャラを多用。


 今回ばかりは不運でないぞ。

 と僕は柄にもなく拳を握った。


 文次郎から説明を受け、一度彼等と別れた火薬委員会の三人と合流できた僕と乱太郎と左近、つまり保健委員会の三人を会わせた僕達六人は、いち早くちどりさんの居場所を掴む事が出来た。

 偶然行き逢った、ウシミツかヨイヤミらしき忍達を数名を追って辿り着いたのはかつての実習の中継地点であった廃寺付近だった。

 この小高い崖の上に廃寺がある訳なんだけど……。

 僕達は茂みに身を隠しながら周囲に気を配る。
 周りには多数の忍達の姿が見える。

 恐らくはこの廃寺にちどりさんがいるんだろう。
 しかし、敵の数が多く、一年生や二年生を連れて無事に包囲網を突破できるか正直不安だった。

 ここは、一度、下級生は退却させ上級生のみで向かうか、それとも増援を待つべきか……。

 僕が考えあぐねていると、左近がそっと僕の袖を引いた。

「あの、伊作先輩。僕、こんなの持ってきたんです」

 そう囁く左近がその肩に背負っている大きな風呂敷を解いた。

「これは……」

 その中身は治療具と半分は大量のもっぱんだった。
 しかも保健委員会特性のえげつない奴だ。

「あ、それに近いものなら我々も、」

 久々知がそう言うと、火薬委員の三人は懐や荷物から次々と鳥の子を取り出す。

「硝煙蔵では大きな火の使えない火薬委員会専用の不審者撃退用武器だよ。これだけあればあいつら蹴散らして近づけないかな?」

 斎藤がにっこりと笑った。

「……よし、それでいこう」

 僕達は頷き合い、頭巾を口許に巻いた。




「おや、じゃあ。我々の手助けは必要ないかね?」

 しまった!背後を取られた!!

 下級生を庇いながら僕と久々知は後ろを振り返る。
 そして、その瞬間、そこにいる人達に僕達皆は驚愕した。















「……先輩!!あの破壊音は!?」

 不破雷蔵の緊迫した声に、中在家長次は頷いた。

「……あれは、廃寺の方角だ」

「急ぎましょう!!」

 中在家を先頭に図書委員会の四名、学級委員長委員会の二名は林の中を駆け抜けていく。

「そういや、気になることがある」

「ん、なんだい三郎?」

 不破雷蔵にぴったり寄り添うように走る鉢屋三郎が口を開いた。

「ヨイヤミの忍組頭、東堂藤ヱ門(とうどうふじえもん)は丹波系の血を引く変装の名手だそうだ」

 はてさて、どんな輩やら。

 と、忍術学園の変装名人、鉢屋三郎は不破雷蔵の顔で不敵に笑った。














「……藤ヱ門様」

 月下に立つ美しい男の、その名を呼ぶ日ノ村(ひのむら)さんの声に緊張が滲んでいるのが分かった。
 日ノ村さんの背後に庇われている私も背中に嫌な汗をかいていることが分かる。

 この男が、ヨイヤミの忍組頭。

 東堂藤ヱ門だ。

 日ノ村さんの話を聞いた限りでは歳は優に四十を越えている筈なのに、その顔立ちは、髪の黒さは、学園の六年生達とも変わりない年に見える。そして、加えてその目鼻立ちは異常なまでに整っていた。

 それは、何処か人工的で、冷たい感じのする美しさだ。



「さあ、御苦労だったね貞明(さだあきら)。よくぞ憎きウシミツの者を掻い潜ってきた。その方をそちらに渡しなさい」


 東堂は私達に向かってさっと手を広げて、艶やかな笑みを浮かべる。

「…………」

「どうしたのだ?」

 私は思わず日ノ村さんの袖を掴み首を横にふる。
 そんな私を見下ろして日ノ村さんは、小さく頷いた。

「…………申し訳ありません、それは、承知しかねます」

 東堂は日ノ村さんのその言葉を聞いて、大袈裟な溜め息をついた。

「……まったく。弱い癖に、生意気で、勘も鋭い…これだから女は好かんかのだ」

 東堂の身体が僅かに揺れた様に見えた。その次の瞬間、


「…………あっ!?」

「っちどり様!!!」

 一陣の風と共に、私は東堂の腕に背後から捕らえられていた。
 まったく、その動きを捉える事ができなかった。

「動くな」

 冷たい声と共にそれ以上に冷たい苦無を首に当てられ、私は背筋が粟立つ。


 そして、呆気に取られた私達に追い討ちを掛けるように、廃寺の縁側から次々と忍達が表れて取り囲んだ。


「まったく。貴様が捕らえ損ねたと聞いた時は肝を冷やしたが、此方の可愛い鬼をけしかけておいて助かったぞ」

 東堂が薄く笑いながら見やる先にいる男は、私の家を襲撃し、母様を捕らえていた男だ。

 日ノ村さんの目が、大きく見開かれる。

「貴様は!!南条芳光(なんじょうよしみつ)!!?」

 やはりか。と私は思った。

「……貴方達は、ウシミツとヨイヤミは手を組んでいたのですね」

 東堂の苦無がぷつりと軽く私の首を差す。

「賢い女は一等好かん。黙っていろ」

「……っ!」

「っどういうことなのですか!?藤ヱ門様!!」

 東堂は口が割けるように笑顔を浮かべた。

「どういうこともなにも、この女が今言った通りだよ」

「そんな、貴方は!!共に憎きタソガレドキとウシミツを倒そうと……」

 東堂の高らかな笑いがその叫びを潰した。

「……ああ、タソガレドキねえ。雑渡は今では随分醜くなっちまって、化け甲斐がない」

 東堂は苦無を持ち替え、自身の顔に当てる。

「貞明。哀れで、可愛い、私の鬼」

 苦無の先はそのまま東堂の頬に僅かに埋もれた。

「十六年前、お前の愛しい姫様を殺した男は……こんな顔であったろう?」

 そのまま顔の皮を剥ぐようにして、その下から現れたのは若い男の顔。

 ただ、私はその右目の形に見覚えがあった。


「そんな、嘘だ…………あれは……お前だったのか!!?」

 日ノ村さんはがくっと膝をその場に着いた。


「お前を育てるのは本当に楽しかったのになあ」

 東堂はふっと眉を潜める。

「悲しいよ、貞明。牙の折れた鬼はもう要らない」

 周りの男達が武器を構える。
 日ノ村さんは肩を落としたまま下を向いている。魂が抜けた様に呆然としていた。

「さて、安心しなさい。お前は殺さない。お前は、忍術学園とタソガレドキの雑渡への上等な人質だからね」

「……うっ」

 東堂の手が私の頬を撫でる。
 その冷たさと嫌悪感にぞっとした。

 その時、日ノ村さんが、ぴくりと動いた。

「おや、折れた筈の牙を私に向けるのかい?」

 日ノ村さんは静かな、でも確かな怒りの籠った眼差しを東堂に向けている。

 私達を囲む忍は十人、日ノ村さんの実力の程は分からないが、私が人質になっている限り、きっと勝ち目は無い。






 その時、私の頭に、潮江君の怒声が響き渡った。




(俺の足を親の敵だと思って……!!)

 私はさっと右足を振り上げる。

(潰すつもりで…)

 そしてそれをそのまま、





(踏めえ!!!!)


 私の全体重を掛けて、渾身の力で、東堂の足に突き下ろした。







「でりゃあああっ!!!」

「ぐっ!?」


 周りの忍達も、東堂自身も、私の反撃は全く予想していなかった様だ。
 私を捕らえる腕の力が弱まった。

 空かさず、頭を振り上げて頭突きを咬ます。

「こっ、の!!」

「うあっ!!」

 手が大きく振り払われ、身体を床に叩きつけられた。
 東堂が刀を抜き、私に向けて降り上げた。

「くそアマめが!!!」

「……っ!」

「ちどり様っ!!」









 その時、視界の端に赤いものが風の様に動くのが見え、私の前に立ち塞がった。

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