いしゃたま!

□彼女について
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オリジナルキャラの多様。死、暴力、流血表現あり


「手荒な事を致しまして真に申し訳ありませんでした」

 私を連れ去った男は小さな廃寺に着くとそっと私を床に下ろした。

「お怪我はなされていませんか。閃光弾に目はやられてはおりませんか」

 左目の下に小さな傷のある痩せた男。
 私は彼をぼんやりと見つめた。何となく見覚えがある。

「何処かで、会いましたか」

 男はぐっと頭を下げる。

「以前、町で偶然にも行き逢いました。お逢いできた時は真に驚きました」

「あなたは、」

 男は顔を上げる。哀しい目をした人だ。と私は思った。

「私は元アケガラス城侍大将が嫡男。日ノ村貞明(ひのむらさだあきら)と申します」










「ちどりさんを拐ったのは、その日ノ村って人ということですか?」

 後輩たる浦風藤内の問いに立花仙蔵は、そうだ。と頷いた。

「十数年前、アケガラスがウシミツに滅ぼされた時、ヨイヤミの忍組頭に拾われらしい」

「敵なんですか?」

「今回の討伐対象はヨイヤミとウシミツと聞いていますが」

 そう言った初島孫次郎、竹谷八左ヱ門に立花は今度は首を横に振った。

「おや、どういうことなんです」

 綾部喜八郎が首を捻った。







「……日ノ村貞明はちどりさんを取り戻したいだけだった」

 中在家長次が不破雷蔵と、その隣の鉢屋三郎に静かに語る。

「もしかして!六年生が襲われたのって!?」

 能勢久作が合点がいったように手を打ち合わせる。

「……どういう経緯か学園が彼女を捉えていると思っていたらしい」

 中在家は頷きながら言った。

「でも、なんで……」

 摂津きり丸が、解せぬと言いたげに首を傾げた。

「そうです。何故ちどりさんが?」

 黒木庄左ヱ門も同様であった。









「しかし、実習中。伊作に手当てされ、話をした結果。それが過ちだった事に気付いたそうだ」

「成る程。人徳ですね!」

 伊賀崎孫兵に腰縄を持たれている神崎左門が潮江文次郎に頷く。

「でしたら、今こうして拐うとはどうしてなんです。敵ではないと仰いますが、これはヨイヤミの命でやっていることではないのですか?」

「いや、そもそもなんでちどりさんなんですか?」

「ちどりちゃんは、くのいちでもなんでもない一般人でしょ?」

「仮にも忍者なら、そんな無駄な事はしない筈では?」

 久々知兵助、田村三木ヱ門、斉藤タカ丸、池田三郎次が一様に疑問を溢す。
 潮江は眉間の皺を深めた。

「……何か事情があるんですね」

 任暁左吉が不安げな表情を浮かべた。














「三反田家を襲撃したのは恐らくウシミツとヨイヤミの忍連合軍だ!」

 林を駆け巡りながら七松小平太は後ろの後輩達に語り掛ける。

「どっ、同盟を結んでいたというこでしょうか?」

「そんな話、聞いたことがありませんよ!?」

 七松に必死に着いていきながら平滝夜叉丸、尾浜勘右衛門が問う。

「秘密裏に忍者隊のみがずっと繋がっていたらしい。その目的はタソガレドキを滅ぼすことだ」

「タソガレドキを!?」

「ますます分かりません。そいつらとちどりお姉さんと、いったい何の関係があるっていうんですか?」


 縄で繋がった、時友四郎兵衛、次屋三之助が少し遠い背中に声を張り上げた。











「ここまでが、伊作の奴が、日ノ村とタソガレドキの雑渡にそれぞれ聞いた話を合わせるとってとこだな」

 と、食満留三郎が言う。

「つまり、俺達はヨイヤミとウシミツをぶっ飛ばせば良いってことですね!!」

「守一郎さん、話理解してますか?」

 富松作兵衛が少し呆れた様に浜守一郎に笑い掛ける。

「ああ、まあ。それで合っている」

 食満は二人の後輩に笑い、しかし、その表情はまた瞬時に険しさを増していく。

「なにしろ、日ノ村は恐らくヨイヤミとウシミツの繋がりを知らない。ウシミツを恨んでいるが、奴はそれ以上にタソガレドキに、雑渡に対する強い恨みを持っている。その流れで俺達にも火の粉が飛んだわけだな」


「え?アケガラスを滅ぼしたのはウシミツだから分かるとして、何故タソガレドキまで恨まれるんですか?」

 富松の問いに食満は苦虫を噛み潰す様な顔をした。

「……ヨイヤミの忍組頭は御丁寧に時間をかけて鬼を産もうとしたらしい。それも戯れみたいに、悪趣味極まりねえよ」

「あの。俺達、分からないんですけど、その事とちどりさんは関係なくないですか?」

 守一郎が首を捻る。食満の目に、一瞬迷いが見えたが、やがてゆっくりと口を開いた。


「……ちどりさんの、」
















「日ノ村さん」

 私は日ノ村さんをじっと見つめる。
 彼の眼差しはやはり哀しげで何処か遠くを、私の背後に何かを見るような目だった。


「貴方は……私の「母」を知る人ですね」















「……ちどりさんの産みの母は、嘗てのウシミツ城主の側室であり、アケガラス城主の娘にあたる人だ」


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