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□とある晴れた日に
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さて、彼は鉢屋三郎君だろうか、それとも不破雷蔵君だろうか。

ぽかぽかと良いお日和の午後。木陰ですぅよすぅよと気持ち良さげに眠る男の子を私はじいっと観察する。

上級生が昼寝など、と、何処ぞの会計委員長が知れば青筋を立てそうな光景だが、どっこい、上級生の仲間入りをして一年を経たこの学年は、胆もそれなりに座ってきたのか何処と無く余裕のありおおらかな雰囲気を纏うようになってきている。悪く言えば呑気なのである。

四年生の頃は緊張があった。此れが六年生になると、覚悟というものが加わってくるんだろう。

さて、柔和な顔立ちは、寝入っているから更にほやんと穏やかで、目も当然閉じてしまっているから判別に難しい。

手足の無防備な投げ出し方は穏やかな性質の不破君を思わせるが、はて。

と、私は、暫く其処で考えていたが、結果、まあ起こせば分かるかとの結論に至った。要は考えるのが面倒になったのだ。

「不破君か鉢屋君。起きて下さいな。」

「……ん、むぅ。」

然し、揺すられるまで気付かないとはやはり上級生として如何なものかもしれない。不破君若しくは鉢屋君はごろりと寝返りをうってまたすぅよすぅよと寝息を立てた。

……仕方無いな。

私は徐に懐へ手を入れた。次の瞬間、弾ける様に起き上がる不破君若しくは鉢屋君。

「……っ!?、え、あ……?なまえさん。」

「おはよう、不破君。」

私をさん付けで呼ぶのは不破君だ。そしてぽかんとした顔がそのまま柔和な雰囲気を崩さないままに苦笑に変わる表情の癖も。私は懐の下で掴んでいる懐刀から手を離す。

「殺気で起こされるのは心臓に悪いなあ。」

「学園の人達の殆どはこれで起きるんだよね。人は選ぶけど。」

「人?」

「七松先輩にやって死にかけました。」

「なまえさん、怖いもの知らずだね……。」

好奇心には勝てなかったと当時の恐怖を思いながら答えれば、みょうじさんらしいと笑う。急に起こされたというのに、機嫌を悪くする様子が微塵もない。今日のお日和の様に穏やかな人だ。

「何か、用事?」

「うん、借りてた本を返そうと思って。凄い面白かった。」

「え、早いね。」

「面白すぎて一晩中掛けて読んじゃったの。お陰でほら、花の乙女にうっすらと隈が。」

目の下を撫でてみせた私に、不破君はほんとだと目をぱちくりとさせてそれからふんわりと笑う。

「なまえさんの寝る時間を奪っちゃったのは申し訳ないけど、貸した方としては楽しんでくれて嬉しいなあ。」

「だから不破君の寝てる時間を、今削ってやりました。」

不破君はまた目をぱちくりとさせて今度は弾けた様に笑う。
彼の笑い声に合わせる様に、木漏れ日が綺羅綺羅として、目に眩しかった。

「ほんとに今日は良いお天気ね。」

「うん、お昼寝日和。」

そう言って不破君はまたごろりと横になる。
それから私を見て、とんとんと横の草地を叩いた。

「どうぞ、宜しければ。」

「あらま、共寝のお誘い。」

「あ、嫌だったら良いんだけど。」

そう慌てて付け足した不破君の顔に徐に朱が立ち上がるのを見て、私の胸の内にまで日溜まりが入ってきたみたいにうんと暖かい気持ちになる。

「鉢屋君に見つかったら喧しくなりそう。」

「その時はその時。」

本の感想を言いに来たんだけどなあ、でもまあ、起きたらで良いか。

そんな事を思いながら彼の隣に寝転ぶ私は彼に負けずとも劣らず呑気だが、まあ、こんな素敵なお日和に野暮な事は言いっこなしだと、隣の温もりを感じながらうとうとと目を閉じるのだ。



ある晴れた日に



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