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□私と花火を見に行くぞ。
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「よお。」

と、男物の渋い浴衣を来たプリキュアが私に声をかける。

ガッと手を伸ばしたら寸前で捕まれた。

「なに考えてんだなまえ!!?」

「こっちの台詞じゃボケエエエエ!!!待ち合わせに現れた彼氏の顔がキュアなんちゃらだった女の気持ちを考えやがれ!!」

「キュアトゥインクルだ!!!」

「激しくどうでも良いわ!!!」

提灯の灯りをぺかぺかと反射するお面をひっぺがそうと奮闘する私と、そうはさせじと鉄壁ガードする、鉢屋三郎、悲しいことに、これが私の恋人だ。

「ママー、プリキュアが戦ってるー。」

幼女が指を指しながら通りすぎた。
おい、誰だ今写メった奴は。

「信っっじらんない!なんなのあんたは!!?」

「いや、実はさあ……今朝ちょいとニキビ的なものが、」

私から距離を取りながら三郎は言う。お前は女子か、と思う。

「お前は女子か!!」

口にも出した。

「だって雷蔵にはできてないから。」

「………………でやっ!!!」

「おぐっ!?」

鳩尾を正拳突きして、腹を押さえる三郎からキュアなんちゃらのお面をひっぺがす。

「ばっきゃろおおおお!!そんなに雷蔵と一緒が良いなら、雷蔵とデートしやがれド変態!!!!」

しゃがみこんでいる三郎をほっぽりだし、私は走り出す。

「ほんっとあり得ないまじあり得ないガチであり得ない世界一あり得ない宇宙一あり得ない………」

あり得ないを連呼しながら私はガンガンと下駄を鳴らして早足で歩き続ける。浴衣なんて着るんじゃなかった。夏が始まった時から吟味して選んだ菖蒲模様の裾を見下ろす。

息が上がってきたので、足を止めた。

「はあ……」

肩で息をしながら、私はまだ片手にキュアなんちゃらを持ってる事に気づいた。

ばっと腕を振り上げ、地面にぶん投げようとしたけれど、キラキラとしたでっかい目と目が合ってしまい、ぐっと思い止まる。

……あんたも本来なら幼女の顔に収まる筈だったのに、変態男の顔を隠すために使われるなんて、残念だったね。

なんか泣けてきた。

「ちくしょお。三郎の阿呆っ!!」

本格的に涙が出て来てしゃがみこんでしまった。すると、だ、


「どうしたのー?浴衣の綺麗なお姉さーん?」

「彼氏にでもふられちゃったあ?」

ゲラゲラ笑い。金髪タンクトップ。これが日本の田舎のチャラ男ですって博物館に飾れそうな二人組だ。なんだその首から下げてる指輪は、ごついチェーンの十字架は敬虔なキリスト教徒かよてめえ、って言ってる場合じゃねえわ、なんか囲まれた。

「ねえねえ、顔上げてよ。」

「一人なら俺らと遊ばね?」

テンプレートな台詞だな。おい。
頭では茶化したこと言ってる私は、実際はガクブルで動けない。

「と、通してください。」

情けなく小さい声。

「「と、通してください。」だってー。」

またゲラゲラ笑い。もう嫌だこいつら、




「待ちたまえ!!!」

「!?」

その時、ざざっと横滑りで現れたのは、男物の渋い浴衣を着た赤レンジャーだった。

「探したぞ!キュアトゥインクル!!早く来い!共にディスダークを倒そう!!」

赤レンジャーは私の腕をひっつかみ、呆気に取られているチャラ男×2から逃げ出した。


「ちょっと、赤レンジャー、早いって。」

人混みに入り込んで漸く歩みを緩め出す。

「………………。」

「………………三郎の馬鹿。」

「うん。」

「馬鹿、阿呆、ボケ、変態、」

「うん、ごめん。」

「えっ?」

「え?」

私は少し高い位置にある赤レンジャーな三郎をばっと見た。

「三郎が素直に謝るなんて……雨が降るかも。」

「そしたら今日の花火は見れないな。」

三郎はぎゅっと私の手を握り直した。
人混みを掻き分けて聞こえるアナウンスが、もうすぐ打ち上げであることを伝えている。

「ニキビって何処にあるの。」

「……顎。」

「え?さっきひっぺがした時はなかったけど。」

「………………。」

三郎は黙っている。見上げる視界に見えた耳朶がうっすら赤い気がする。

花火が上がりだした。腹の底に響く音。人々の歓声、大輪の光の花。

「なんのつもりだったの?」

「うるせえ……。」

赤レンジャーの仮面を取り去りながら、三郎はじとりと私を見下ろす。

「……浴衣着た彼女に、デレた顔見せたくない男の気持ちを考えろよ。」

花火の音に紛れそうな程小さな声で、三郎が、ぼそりと呟いた。






私と花火を見に行くぞ。
拍手ありがとうございます。三郎で夏の花火大会のお話でした。
 

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