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□僕とお花見に行かない?
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ぱかっと開かれた、その中身は彩り良く可愛らしくかつ美味しそうなおかずの数々。
「ちょっと張り切りすぎちゃったかも、あ、でもね。このキッシュは自信作だよ!」
なんだこの女子力の固まりは。
「なまえちゃんは?」
「…………唐揚げ。」
タッパーにこれでもかと詰め込まれた大量の唐揚げ。茶色い。凄まじく茶色い。
「やったあ。僕なまえちゃんの唐揚げ好きだよ!」
にこっと笑うできた嫁、じゃない、できた彼氏。伊作君は本当に天使だ。
誰だ、弁当持ち寄りにしようとか言った奴。私だ。
「美味しいね。桜も綺麗だし。」
「うん。……美味しい。」
私の唐揚げを嬉しそうに頬張る天使にひらひらと花弁が巻い散る。
彼の卵焼き、じゃない、キッシュか。とにかく絶品だ。
「ああ、それね。作るとき二回くらい爆発したから、ちょっとしか残らなかったんだ。でも美味しくできてるでしょ?」
「爆発。」
そうだった。この天使は余りにも運から見放されたギャグ漫画のような男だった。
どうやったら現代社会のキッチンが二回も爆発するんだろう。
私はしげしげと優しい黄色のキッシュと彼を見比べると、照れたように頬を赤くしながら笑う。
「なあに?」
「ううん。なんでもない。」
えー?と笑いながらくすぐったそうに笑う彼に、私の頬も緩む。
けど、それは瞬時にひっこんだ。
「危ないっ!」
私はばっと彼を突き飛ばす。
「わっ!!」
転げた彼をすり抜けて、ボール遊びの親子の流れ弾もといサッカーボールが凄い勢いで飛んでいった。
「あ、ありがとう。」
「どういたしまして。」
「やっぱり、なまえちゃんといると僕って運が良くなるみたい。」
そりゃあ、貴方の不運回避の為にいつも気を張り巡らせておりますから。
伊作君の幼なじみ程ではないけど、彼の不運パターンは私の中に染み付いている。
友達には、そんな彼氏で疲れないかと良く聞かれるけれど、
「ああ、違うな。なまえちゃんと出会えた事自体が、僕にとって最大の幸運なんだ。」
ほら、この笑顔。純粋で真っ直ぐな言葉。
これの為ならちょっとやそっとの不運はなんのそのだ。
「特に今日はすっごい幸運だよ。爆発は二回ですんだし、ご飯は美味しいし、天気は良いし、桜は綺麗だし、」
にこにこと嬉しそうな伊作君。
しかし、
彼の幸運はとんでもない不運のフラグだったりするんだよなあ……
「ね。腹ごなしにちょっと歩かない?」
不運よ、どっからでも掛かってこいや!と、密かに身構えている私を他所に彼は意気揚々と立ち上がり。
「わわっ!?」
思いっきり足を滑らせた。
「伊作君!!」
これは不運なのか、いや彼の不注意なのか、
判断つかぬままに彼を支えようとした私まで巻き込み、土手を転がり落ちた。
反転する視界、
青い空に、
舞う桜、
そして、彼の顔が、近づいてきて。
ああ、これは、不運と幸運のぐるぐるミックスだな。
私はそっと目を閉じた。
僕とお花見に行かない?
拍手ありがとうございます。伊作と春のお花見のお話でした。