いしゃたま!

□そうはいっても、
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「六年生は、」

「え」

 鉢屋君が唐突に話し始めた。不破君を見れば、不破君もきょとんとした顔をしている。

「この文化祭の前後から卒業後の就職活動に入る」

「……そう」

 脈略の無い感じに、私は曖昧に頷く。
 鉢屋君の顔色は大分元に戻っていた。きろ、と、私を見る。

「あんたはどうするんだ」

「わ、たし?」

 なんで、私の話しになる。
 ポカンと口が開いてしまっていたら「アホ面」と鉢屋君が小さく呟いた。

「善法寺先輩だって、フリーなるか、どっかの城に就職するか、そういうの決め始めんだよ」

「それで?」

「それでってなあ、」

 話が見えない……というか、それよりも。

「いさ……善法寺君の事、」

 鉢屋君は呆れ返った様に仰け反り返る。
 不破君も溜め息の様な苦笑を溢した。

「ちどりさんも、善法寺先輩も、分かりやすいですから」

「そ、う……、」

 何が「そう」なんだか。

 気まずい沈黙が流れた。
 私は意味も無く薬研を転がすけど、薬草も何も置いてないから、間抜けだと思って止める。

「だあーっ!!もう!」

 鉢屋君がばんと床を叩いた事で、また空気が動き出す。

「だっから、善法寺先輩が着いてこいっつった場合はあんたどうすんだっつー話だよ!」

「どうする、って……、」

 私の口は、またポカンと開いたままになる。

「……考えた事もなかった」

 開いた口から、そのまま言葉が出る。
 思ったままの言葉だ。

 だって、本当に……何も考えてなかった。

 鉢屋君と、不破君は私の顔を何とも言えない表情で見ている。

「でも、多分」

 ふと、空に棚引く煙が見えた。

「私は、私のまま、変わらないと思います」

 本当にそう?

 と、自分で自分に問う声が聞こえた気がした。

 分からない。
 と、私はそれに胸の内で答える。
 起きてみないと分からない。
 それしか、今は言えない。

「……というか、なーんでそれを、鉢屋君に言わなきゃならないんですかねぇ?」

 ちょっと空気が思い気がして、おどけて返してみたら、鉢屋君はまた思いっきり顔をしかめる。

 それから、鉢屋君はほんの一瞬、じっと私を眺めて、私がその表情を不思議に思う前に、不破君と一緒に立ち上がる。

「雷蔵、今夜は五年で飲むぞっ!?」

 部屋の入り口で不破君に思いっきり背中を叩かれて、廊下に転がりでた鉢屋君を、私は笑って良いものかどうか分からずに「お大事に」と言う声が間抜けに響くのだった。


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