いしゃたま!

□とある深山に
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オリジナルキャラクター注意


 数馬と手を取り合い、傾斜を登ったり藪を越えたりして、漸く、開けた場所に出た。

「……出てこれたは良いけど、此所ってどの辺りかしら?」

 数馬はぎゅっと目をすがめて辺りを見る。

「ちどり姉さん、ちょっと待っていて」

 そう一言、直ぐ近くの樹の枝にひとっ飛びに取り付いた。
 なんて、軽やかな動きだろうと、私の口から思わずほう、と、溜め息が出る。

「やっぱり、数馬も忍たまなのねぇ」

「何言ってんのさ」

 馴染みのあるふにゃんとした笑みで私を見下ろし、そのままするすると上へ登っていく。
 高い所から方位を確認してくれるらしい。

 私は木登りは出来ないし、ぼんやりと待つしかない。

「……ん?」

「あれ?」

 私の声とほぼ同時に樹の上からも小さな声。
 数馬と呼べば、ざっと直ぐ隣に降りてきた。

「聞いた?」

「うん」

 遠くから、微かに女の人の叫び声。

 私達は顔を見合せる。
 私の顔を見て察したのだろう数馬がぎゅっと顔をしかめた。
 私はそれにちょっと苦笑しながら頷く。


「見に行きましょう。争ってる様な声は聞こえないから、野武士の類いでは無いと思うわ」

「言うと思ったよ……でも、一応僕の後ろから来て」

 数馬はふうと溜め息を吐いて、私の前にまわり、小走りに声が聞こえた方角へと進み始める。
 私も後に続いた。



 暫く走って行くと、踞る人影が見えた。

「……っ!数馬、あれ!!」

「うん!……大丈夫ですか!?」

 数馬が速度を上げてその人影に近づいていく。

 墨染めの着物、小柄な老年の尼御前(あまごぜ)様だった。

「ああ……御親切に、大したことは無いのですよ」

 ちょんと顔を上げてにこりと微笑みを浮かべた。
 が、その手が脚を擦っている。もう片手にモゾモゾと動くもの。

「年甲斐も無く、つい昔のつもりで動いて、樹から脚を滑らしましてねぇ」

 小さな雛鳥を見下ろした尼御前様が身動ぎをし、申し訳なさそうな顔で、樹の上を見上げた。
 痛みが来たのか、柔和な面差しにきゅっと力が入る。


「脚を捻られたみたいですね。数馬」

「うん。尼様、雛は僕が巣に戻します。ちどり姉さん、薬はある?」

「幸運な事に」

 にっと笑えば、数馬もふふと笑い返す。

 保健委員会と斜面での山芋掘りとくればと、捻挫用の薬を念の為に持ってきていたのだ。
 そしてそれは落とす事もなく私の荷物の中に入っている。これを幸運と言わずに何と言おうか。

 尼御前様は不思議そうな顔で私と数馬の顔を見比べている。

「ご安心ください。私達は、えっと……」

 んー……なんて言ったら良いのかな。
 忍術学園の事は学園外では言っては駄目なんだよね。

「薬師の家のものです。姉は医者の心得がありますから、どうか任せてください」

 数馬が助け船を出してくれた。
 そっと差し出した手に尼御前様が雛鳥を乗せれば、にこりと笑って、樹の上へと先程の様に軽やかに飛び移っていった。

 尼御前様がこれまた先程の私みたいにほうと息を吐いた事に、ついくすりと笑ってしまった。

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