いしゃたま!
□これぞ彼等のお約束
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忍術学園六年は組の食満留三郎は、目の前の級友が繁みから尻を突き出した状態になっている姿を漸く見つけ、ほうと胸を撫で下ろした。
「良かった。伊作、無事だったか」
「ああ……なんとか」
尻に向かって話せば尻が答える。
この状況を無事であると解釈できる所が、彼と、その級友、善法寺伊作の付き合いの長さを如実に表していた。
「ほぇえ、スッゴいスリルゥ」
「伊作先輩大丈夫ですかぁ?」
「何故、こんな事に……」
善法寺の後輩、保健委員会の下級生三人銘々の反応。
それに対して、善法寺は未だ腰から下だけが出ている状態であははと力無く笑う。
「なんか、引っ掛かっちゃってるみたいで……」
「仕方無いな。お前達、引っ張るぞ」
「「「はぁーい」」」
良い子の返事をした下級生と食満でそれぞれ取り付き、ぐいっと引く。だが、抜けない。
「抜けませんね」
「サスペンスゥ……」
もう一度引く、抜けない。食満はふとあることに気づいた。
「伊作、山芋の籠はどうした?」
「あ、それは無事だったんだ。今も手に持ってるよ!」
「……お前、それが引っ掛かってんじゃねえのか?」
「あっ、そっか」
「ぶおっ!?」
籠から手を離したんだろう、一気に抜け出た善法寺が食満の上にどさりと重なるようになり、均衡が崩れた食満はその場に転がり込んだ。
「す、すまない留三郎」
「……気にするな、同室だろう」
だが、早く退いてくれたら助かると付け足したら、慌てて善法寺は起き上がった。
枝に擦れたのかあちこちに擦り傷もあり泥だらけになっている。
「伊作先輩、山芋の籠ってこれですか?」
「あ、ああ」
二年い組の川西左近が繁みを探り見つけた様である。
「よし、伏木蔵、乱太郎。手伝え」
「はい」
「はぁい」
三人の後輩がよいしょと繁みから背負い籠を引き抜いた。
引き抜いた途端に、ぐらりとよろける三人。
「わわっ、重たい!!」
「山の芋は無事だな」
「やったあ!すごーい!!」
籠の中身を見てきゃいきゃいと喜ぶまだ幼い後輩三人。
微笑ましい光景ではあるが、と、善法寺はふっと表情を陰らせ、食満を見上げる。
「ちどりさんと、数馬がいない」
「ああ、まだ見つかってないんだ」
「……なんてことだ!僕がいながら……!!」
「いや、まあ……うん」
頭を抱える善法寺を見下ろす食満の脳裏に寧ろお前がいたからではないのかという考えが一瞬去来するが、あまりに不躾な発言であるなと思い口を継ぐんだ。
「数馬と一緒に走っていくのが見えたから、二人でいるならまず大丈夫だろう。忍具だって持ってるだろうし」
継ぐんだ言葉の代わりに食満がそう言えば、善法寺はうんと短く頷き川西から籠を受け取る。
「どちらにしろ、できるだけ早く探しに行こう。僕ら保健委員の事だから忍具を落としてしまっている可能性も最悪はぐれてる可能性もあるから」
そう言ったはっきりとした表情の善法寺を見て、ああ、と食満は思い至った。
「お前、変わったなあ」
「え?」
今までの、食満が知る善法寺であれば、「僕のせいだ」と己を責め、自分の天運に見放された性質を嘆くばかりであったと思う。
感慨深げな食満を不思議そうに見ていた善法寺は、あ、と目を瞬いて、手に持つ籠を食満に差し出す。
「すまないが、これは留三郎が持っていてくれないか?山の芋が無くなってしまったら、彼女も保健委員会の皆もがっかりするから……何を笑ってるんだい?」
成る程、益々逞しい、と食満は分かったとそのずしりと重い籠を受け取るのであった。
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