いしゃたま!

□これぞ彼等のお約束
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 空が何処までも高々としていて、吸い込まれそう。

「ほら、数馬。見てごらん、あの楓、少し色づき始めてる」

「ちどり姉さん……」

 爽やかな空に何処までも不釣り合いな地の底を這うような声。
 隣の数馬は小さく膝を抱えて顔を伏せている。

「……ほんとにごめん」

「あっはっはー……」

 大丈夫の意味を込めてその肩を抱き寄せる。
 笑い声が乾いているからあまり効果は無い気もするけれど。

 並んで座り込む私達の直ぐ背後は切り立つ崖だ。
 数馬が言うには登器の引っ掛かる所が無いそうで、そもそもその登器も色々あって他の忍具諸とも無くなってしまったらしく数馬のどんよりっぷりは中々に煮詰まっている感じで、周りに暗雲を背負ってる様にすら見えた。

 うーん……なんでこうなったんだっけ。

 保健委員会の皆さんと、それから食満君と山の芋掘りをして、まだ時期は早いというのに大きなものを沢山採ることが出来てみんなで喜んだ所までは良かった。

 ……否、思えば順調過ぎたのかもしれない。
 そう言ってしまえば失礼だけれど、あの、保健委員会だもの。

 だから、突然の豪雨に見回れようと、ちょっと規格外に大きい猪に襲われようともちょっとした崖から転げ落ちようともお約束だと思っておけば案外でんと構えてはいられるものだ。

「二人とも大した怪我も無くて動く事もできるから、これって寧ろ幸運じゃないかしら?」

 まあ、私と数馬が採った分の山の芋は何処かへと消えてしまったけれど。

「……」

 数馬から返事は返らない。
 猪から逃げる時、私の手を引いて走ってくれたのは数馬だ。責任を感じてるんだろうな。

 んー……。

「おりゃっ、頬っぺたもちの術!!」

「おっわ!!?」

 伏せた所から僅かに見える頬っぺたをふにっと摘まんでやる。
 久しく触ってなかったけれど変わらないもちもちとした触感についつい此方の頬が緩む。

 びっくりした数馬の顔が上がった隙にぐりぐりと頬擦りもする。

「わっ、ちょっとちどり姉さん!


 学園でずっと一緒とはいえ、私は仕事の身だし、数馬ももう大きいしで、ここまでくっついたじゃれあいは中々できなかった。
 少しむず痒くて、そして、うんと暖かい気持ちになって、そのままがしがしと柔らかい頭を撫でてやれば、とうとう小さな笑い声が聞こえてくるのだった。

「さ、行こう、数馬。取り敢えずは開けた場所に出ないとね。姉さんを連れていってちょうだいな」

 ぱんぱんと泥を払って手を差し出せば数馬もうんと頷いて手を取った。

 何時の間にか随分としっかりと固く大きくなって、それでもふんわりと暖かい手をしっかり握って、私は数馬と一緒に森の中を歩き始めた。


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