いしゃたま!

□そうして実るもの
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「……で、俺の所に来たという訳か」

 食満君は肩を竦めて小さく笑った。

「無理なお願いだとは思うんですけど、私だけで庇いきれるか正直不安で」

 何を何から庇うのか。
 それは言わずもがな、山の芋を採集する保健委員会の面々を、遅いかかる不運な出来事から、だ。

 山の芋の採集は斜面でするのが基本だ。
 山の斜面と保健委員会……嫌な予感がぐるぐると頭を巡る感覚に耐えきれず、私はとうとう、用具倉庫に食満君を訪ねていた。
 伊作君と同室で面倒見の良い食満君なら手助けしてくるかもという期待でだが、案の定、あっさりと彼は了承してくれた。

「実は、既に伊作から頼まれてんだよ」

「え、そうなの?」

「保健委員会の採集には良く着いていくしな、それに今回は、」

 にこりと目を細めて私を見る。

「後輩達と、ちどりさんを守って欲しいと懇願された」

「……あらま」

「山芋掘りごときで大袈裟なって感じだがなぁ」

 私は何とも言えず曖昧に首を振った。
 食満君は微かに一つ息を掃いて、手にもっていた縄梯子を畳むのを再開する。

「俺が言うのも変だけど、ありがとうなちどりさん。あいつの事、選んでくれて」

「……卒業までお待たせしていますけど、ね」

「それも聞いた」

「ほんと、前から思ってたけど、六年生達って色々と筒抜けよね」

 畳んだ縄梯子を棚にしまう食満君は何処か嬉しげに、ふふと息が抜けるような笑いを溢した。

「皆、あいつに関しては過保護なんだよ」

「食満君がその代表ですね」

「同室だからな」

 取り敢えず当日は任しておけ。
 と、頼もしい食満君にもう一度お礼を言って、用具倉庫を後にしようとする。

「じゃ、また」

「ああ……筒抜けついでに、」

 ふと、そんな唐突な語りだしに足を止められた。
 振り返れば、普段は険しい表情の食満君が吃驚するくらい優しい顔をしている。

「あいつ、凄い頑張ってるんだよ。鍛練も勉学も、元々伊作は努力家なんだが、何時も以上に、しっかりやろうと頑張ってるんだ」

「うん」

「ちどりさんの隣にずっと立ちたいんだって言ってた。内緒にして欲しいらしいがな」

 耳がやにわに熱くなった気がする。
 私は、意味もなくもう一度、うん、と頷いた。

「三禁云々とは言うけれど、俺は本当に良かったと思ってる。だから、ありがとう」

「うん。此方こそ、ありがとう」

 彼は愛されてる。
 そう思えば胸の奥が火鉢を抱えたみたいにほっかりと暖かだ。

 私はその暖かいものを大事に育てていきたい。

 内緒にしてるなんて言うけれど、私は伊作君に細かい傷や怪我が増えている事や、手の空いてる時は何時も医学の本を読んでいる事を知っている。
 本来なら怪我を心配するべきなんだろうけど、伊作君の明るく迷いの無い表情を見ていたら、おろおろとするの失礼にも思った。

 そんな伊作君を見て、私も頑張ろう、と、そう思える。

 空を見上げながら「頑張るぞ」と小さく口に出してみたりした。薄い青色が一面に広がって、その上を風が吹きわたっている。

 すっかりと、もう、秋だった。

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