いしゃたま!
□そうして実るもの
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さて、来るべき文化祭に保健委員会は茶屋を開く事に決まった様です。
しかし、生徒達の健康管理と薬種調合を担う保健委員会、そこは只の茶屋ではないみたい。
「薬膳?」
食堂で遅めの昼食を取っていたら、「いたいた」と楽しげなようすでやって来た二人が言い出したのは『薬膳茶屋』の構想だった。
「はい、予算に限りもあるので簡単なものばかりですが。効能とかも明示して店に出してみようかと」
ね。と、伊作君が隣の乱ちゃんに首を傾ければ、にこにこと元気良く頷いた。
「乱太郎の発案なんですよ」
「へぇ、良いじゃない!面白そう!」
乱ちゃんは頬を赤くし、誇らしげだ。
そんな乱ちゃんの頭を撫でる伊作君まで誇らしげな顔をしている。微笑ましい光景だと思った。
「委員会の皆で相談して品書きを大体作ったんですけど、女性の方の意見も聞きたいなと思いまして……ちどりさん、見て貰えますか?」
「勿論です」
伊作君の手から受け取ったお品書きに目を落とす。
「……生姜湯、良いですね。甘茶を使って少し甘めにすると飲みやすいかもしれませんね。えびす草もこの時期沢山取れますから扱いやすいですし」
流石は保健委員会全員で考えただけあって非の打ち所はないんじゃないだろうか。
「ありがとうございます。甘いものがもう少しあると良いかなと思うんですが、何か良い案ありませんかね?」
「甘いもの、ねぇ……」
普通に茶屋で出すとしたら団子や饅頭になるだろうけれど、予算が掛かるし、薬膳からは離れてしまいそうだし……ふむ。
「甘味とは少し違うかもしれないですけど……裏々山辺りならそろそろ山の芋が掘れそうですよね」
「……ああ!」
合点が言った様だ。
手をぽんと打った伊作君は顔を輝かせる。
「成る程、芋粥ですね!」
「芋の……お粥ですか?」
乱ちゃんはキョトンとしている。どうやら、知らないようだ。
といっても、私も祝い事の時に数回食べたくらいけれど。
「簡単に言えば、山の芋を柔らかく甘く煮たものよ」
厨房から顔を覗かしたおばちゃんが、説明をしてくれた。
「私も殆ど食べた事がないから興味あるわ。良かったら試作を手伝わせてちょうだい」
「おばちゃん、ほんとですか!?」
「それはありがたいです!」
学園一の料理人が協力してくれるなんて願ってもない申し出だ。
「ふふ。じゃあ、沢山採ってこないといけませんね」
「よし、今度の委員会は裏々山で山の芋の採集だ」
「はい、伊作先輩!」
乱ちゃんが力強く頷いた所で次の授業の予鈴が鳴った。
二人は私とおばちゃんに代わる代わるお礼を言って、食堂を後にする。
「では、ちどりさん。また後で」
「ええ」
目をじっと見て、それからふわりと笑った伊作君に、少しだけドキリとする。
そうして、二人の気配が遠ざかっていった後に、食堂のおばちゃんがぽつりと呟いたのだ。
「張り切っているのは良い事なんだけど、保健委員会が山なんて大丈夫かしらねぇ」
……ああ、その通りだ。忘れてた。
私は、思わず湯飲みを落としそうになった。
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