いしゃたま!
□天高く少年駆けるの秋
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「文化祭?」
ちどりさんは薬研の手を止めて、少しぽかんと首を傾げた。
仕事中はキリッとしている事が多い彼女は、そんな表情をすると一気に幼い雰囲気になる。
「え、なんで笑ったの、今」
端的に言えば、僕、六年は組、善法寺伊作は少々浮かれているのだと思う。
「いや、可愛かったので」
「かっ、わ……!?」
真っ赤になったちどりさんの手の下で薬研がミシリと軋んだ。
「力を込めすぎると腕を痛めますよ」
「誰のせいですか!?」
「あはは、僕のせいって思っていいんべっ!?」
脳天に衝撃を受けて、僕はつんのめった。
「余所でやれ、伊作」
心底げんなりとした顔の保健室の来訪者、立花仙蔵にごめんと返せば、深々と溜め息まで吐かれた。
次いで、ちどりさんも小さく溜め息を吐く。
「何時もの学園長先生の思い付き、という奴です」
転がった僕の代わりに仙蔵が説明する。
ちどりさんはそれに、ああと、納得したようなしてないような曖昧な返事をした
「皆が楽しめるようなお祭りがあるのなら、良いものですね」
ちどりさんらしい答えだと思った。
起き上がった僕は思わず頬が緩む……って、
「ふぇ、ひゃへへひょ、へんほぉ、」
「まあ、そうなれば良いんですが、各委員会の小遣い稼ぎでもあるのでそれなりに騒動はありそうです」
「ふひ?」
僕の頬を一頻りぶにぶにとして、漸く仙蔵は、立ち上がった。
「薬、貰っていくぞ。あと、ちどりさん。そこの浮かれ男が馬鹿な事をしでかしたら直ぐ我々に言ってくださいね」
そう一言、真っ直ぐな髪を揺らして仙蔵は保健室を出ていった。
うん、『浮かれ男』か……。
自覚はあるけれど、人に聞かされると中々に身につまされる。
「伊作君、つねられた所、赤くなってる」
ああ、でも、頬を指差しながら優しく苦笑しているちどりさんを見るだけで、じんじんと痛む頬も気にならなくなってしまう。
件のドクタケ城での人質の一件から早数日、ドタバタと騒動の内に流れてしまいそうだったが、僕だけの勘違いでなければ、ちどりさんは、僕の気持ちを受け入れてくれたんだ。
常に不運と肩を並べている僕にとっては、今にもしっぺ返しがあるんじゃないのかと不安になって仕舞うほどだ。
真っ直ぐで強くて暖かな彼女が、僕の気持ちを受け止めて、僕の事を好きだと言ってくれた。
僕はそれだけでもう色々と満たされている。
ひやり、と、頬に何かが当たり肩が跳ねる。
「ん」
「一応、冷やしておきましょう」
濡れた手拭いが頬に当てられている。隣のちどりさんを見れば、ふっと目を伏せた、じんわりと赤くなる目元に、僕の心の臓はやにわに大暴れする。
冷たいんだか熱いんだか大混乱だ。
ちどりさんが、僕の前で、心を動かしてくれている。
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