いしゃたま!

□帰路
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「では、忍術学園一同、帰るとするかの」

 学園長先生の言葉で、固まった空気は再び動き出した。

「あっ、あの!!」

 私も我に返り、呆然とした様子の城の方達に頭を下げる。

「「騙してすみませんでした!!」」

 声が重なった。
 隣を見れば、同じ様に腰を折った伊作君のきょとんとした表情と目が合った。
 なんだそりゃ、と背後からの呆れた声は、多分鉢屋君だ。

 戸惑った様なざわつく声が聞こえる。

「……顔を上げて下され」

 聞こえたのは久里野(くりの)様のが声、恐る恐る上げた先にあるのは、やはり戸惑っている様な困っている様な何とも言えない表情の数々。

「……余りにも唐突で、整理が着かぬ話ではございますが……然し、我々が礼を言うならまだしも、あなた方に謝罪して頂く筋はございませぬ」

 久里野様はその場に静かに一礼する。

「あなた方は、我が城に勤めし者達の病を払って頂いた、礼を言いましょう」

 それを切っ掛けに、周りの人達も次々と頭を下げていく。
 彼方此方から上がる謝辞の言葉に、私と伊作君はただただ困った様に顔を見合わせた。

「きりが無いわ。はよう行け」

 竹高様のぞんざいな声。
 私と、伊作君はもう一度、皆さんに頭を下げ、そして城門を出ていった。
 馬に乗って入ったそこを、地を踏みながら跨いでいく。学園長は楽しげに笑い、尾浜君は苦笑していて、鉢屋君は物凄いしかめっ面だった。

 伊作君は、

「帰りましょう」

 と、私に手を差し出した。
 私はそれを握る。

「……あっ!!」

「えっ」

 その時だ。
 道の向こう側から誰かが走ってくる、それが誰か分かった私は、思わず伊作君の手を離した。
 呆けた声が聞こえたけれど、私はそのまま駆け出す。

「数馬!!」

「ちどり姉さんっ!!!」

 転がる様に掛けてきた数馬を抱き締める、続いてやって来た数馬よりも小さな影達。

「ちどりさん!」

「わあぃお帰りなさい!!」

「思っていたより元気そうですね」

 伏ちゃんと乱ちゃんが、抱き合う私達はを挟むようにしがみついた。
 左近君がやれやれと肩を竦めた。皆一様に泥だらけで襤褸襤褸(ぼろぼろ)だった。

「よ、久し振りだなちどりさん」

 次いで現れた食満君は四人よりさらに襤褸襤褸だ。

「えっと、一体、」

 私は食満君の様子に目を向きながらも、その背後にいる人達に気付く、何処かで見たことがある人達だ。

「あなた方は、確かタソガレドキの、」

「はい。以前アサヤケ山より潮江君を運ばせて頂いた者達です」

「食満君と保健委員会の皆さんの知らせを受けて駆け付けました、帰りの守護は我々にお任せ下さい」

 そう言って、三人のタソガレドキ忍者さん達は微笑んだ。

「……まさかこれも仕組まれておられた事ですか?」

 尾浜君の声、それは恐らく学園長先生に向けてのものだろう。
 聞こえてきたのはくつくつとした笑い声だけだった。

 貞明さんが、三人に歩み寄る。

「山本殿の指示か」

 貞明さんの問いに三人は静に頷く。
 雑渡は、と次いで貞明さんが口にした問いには僅かに表情を曇らせたが、暫時また穏やかな笑みに変わる。

「生きておられます。あの方が命を繋いで下さっております」

 そうか、と答えた貞明さんはすっと目を伏せる。
 私はその静かな表情を見た。
 然し、その陰った表情は一瞬の事、顔を上げ、真っ直ぐに前を向いた、向かい風を受けた様に顔をしかめながら、薄くその口を開く。

「では、ちどり様、我々タソガレドキがあなた様を学園へと送り届けましょう」

 身体を離した数馬の手を私は握る。しっかりと握り返してきたその温もりを嬉しく思う反面、何処かやはり悲しかった。


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