いしゃたま!

□それを定めるもの
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 ドクタケ支城において流行した赤斑疱の罹患者は五名であった。
 最初の発症者である少女とその同室の女中四名。内、少女の姉もいたが症状は軽かった。

 後の世では、疱瘡(ほうそう)と共に命定めとも呼ばれるこの病は、その症状は当然ながら感染力の高さも恐れられた所以であった。

 本来ならば、もっと多くの罹患者を出していたであろう。
 加えて、発症者達は皆、身分の低い(はしため)達である。当然ながら命の保証等無い筈であった。

 この支城に、城主木野小次郎竹高の姪御もといその実態は草座の娘にして現在は忍術学園の医師である新野洋一を師に持つ少女、三反田ちどりと、及び、姫の側遣えもとい忍術学園保健委員会委員長、善法寺伊作がいた事は彼女達にとっては幸運としか言いようがないであろう。




 然し、此方にしてみれば……面倒な事を、と、薄情ながら嘆息せざるを得ない。

 と、正に深々と嘆息するのは、六年い組の立花仙蔵。
 彼の手には、小さい文が握られている。

 忍術学園六年長屋の一室にて、六年生、五年生合わせて五名の生徒達が集まっていた。

「……という事だそうだ。まあ、あの二人らしいとも言えるだろう」

 なあ。と、その文を、伝書鳩を通じて学園へともたらした人物、五年ろ組の生物委員会委員長代理の竹谷八左ヱ門に同意を求める立花であった。
 竹谷は曖昧な苦笑でもってそれに答え、今回の中継役であった五年生達の長たる人物に目配せする。

「取りあえず、どう考えても怪しまれざるを得ない状況ですし、身元が割れたら目も当てられないでしょうね」

 目配せを受けた五年ろ組の学級委員長、鉢屋三郎はやれやれ、と肩を竦めながらそう言った。

「危害は加えないとの御名と血判を貰ってはいても、どう動くか分かったもんじゃねえしな」

 立花の隣で、忌々しげに頭を掻く六年い組の潮江文次郎。
 立花はそれを横目でちらりと見る。
 今回の、ドクタケと忍術学園の奇妙な同盟において、学園長の指示より上級生達はその動向を観察し続けていた。
 それらを牽引する立花は、部屋の壁にもたれ、神妙な面持ちの人物に声を掛ける。

「留三郎。小平太と長次からはまだ何も連絡は無いのか」

「……ああ」

 壁から身体を起こし、六年は組の食満留三郎は小さく頷く。

 タソガレドキの状況を調べに向かった二人、六年ろ組の中在家長次と七松小平太は未だ帰還せず、連絡もない。
 つまり、タソガレドキの内乱の現状も掴めない。

 全くもって、面倒だ。

 立花はまた深々と嘆息する。

「仕方ない。先ずは学園長先生に報告だ。それと、鉢屋、尾浜。場合によればお前達に動いて貰う。後、留三郎」

 食満は顔を上げる。
 彼の脳裏には同室の友の安否に対する不安がひしめいているだろう事は傍目にも瞭然であった。
 立花はそれに苦笑しながらも言葉を続ける。

「許可を貰えたら、保健委員会を連れてタソガレドキへ向かえ」

 さて、この貸しは大きいと言いたいところだが、と、立花は首を巡らせる。
 かの支城の方角に向けて僅かに目を細める。

「人徳も人徳だな」

 そんな呟きが、部屋の空気を揺らせば、皆、銘々に苦笑を浮かべざるを得ないのである。

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