いしゃたま!
□茜の陽に揺れ
1ページ/2ページ
結局、いさ子ちゃん、もとい、伊作君が私の部屋に来たのは夕刻の頃。
人目を避けるための夜、できるならば夜半過ぎであったのだけれど、それは頑なに拒否された。
当然と言えば当然かもしれないけれど、正直そんなの気にしてる場合かと言ってしまえばそれまでで、そんな、微妙な心情を抱えて、私は今、部屋の入り口に遠慮がちに立つ伊作君に手招きをした。
「あの、話とは」
障子を透ける黄金色の光が伊作君の髪に反射した。
明るい障子を背に、彼の表情は分かりにくいけれど、いさ子ちゃんではなく、伊作君として、此処に来ている事は感じ取れた。
きっと、彼は、私が何を聞こうとするのかは分かっているのだろう。
「幾つか、確認したい事があります。答えられないものには答えなくて構わないので」
「……はい」
未だ立ちっぱなしの伊作君に、座ってと言えば、居心地悪そうにもぞもぞと腰を下ろす様に苦笑が溢れた。
さて、何から、どう話していこうか。
「……学園長先生が仰っていた、私がタソガレドキの雑渡さんに対しての質になるという噂は、本当に各地に流れているんですよね?」
頷きが返ってきた。
「その話を吹聴したのは、」
「元ヨイヤミ忍者隊首領、東堂藤ヱ門、でしょうね。」
伊作君が言葉を繋いだ。
「まず、其処が分からないんです。東堂は何故、其処まで雑渡さんを付け狙うの?」
「……それは、」
ふっ、と目を伏せた、伊作君はやがてまた微かに口を開いた。
「固執、盲執、果ては、狂気……理由を探ったとして詮無き事なのかもしれません」
「……そう、ね」
私は息を吐く。
影法師みたいな悲し気な背中が、ほんの一瞬、頭に過った。
「その、詮無き事に、雑渡さんと貞明さんは乗っかっている」
国の危険も犠牲も省みず、ただ私憤を晴らす為だけに、その狂気を被る。
「……ある意味では、」
伊作君の声が重く、私達の間に落ちる。
「それこそ、謀反なのかもしれませんね」
「止める事は出来ないんですか」
伊作君の目が私を見た。表情は読めない。
「……どうやって」
「…………」
私は何も言えなかった。
今のは軽率だった。
伊作君の目は、薄暗く、知らない人みたいに見えて、
ああ、そうか。
彼は私よりも余程分かっている。
と、そう思った。
「僕が出来る事はちどりさんを守り、無事に学園まで戻る事。学園の方でも恐らく何かしらの動きはあるのかもしれません」
沈黙が流れた。
ねぐらに帰る烏の声が、近づいて、遠ざかる。
.