いしゃたま!

□茜の陽に揺れ
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 結局、いさ子ちゃん、もとい、伊作君が私の部屋に来たのは夕刻の頃。

 人目を避けるための夜、できるならば夜半過ぎであったのだけれど、それは頑なに拒否された。

 当然と言えば当然かもしれないけれど、正直そんなの気にしてる場合かと言ってしまえばそれまでで、そんな、微妙な心情を抱えて、私は今、部屋の入り口に遠慮がちに立つ伊作君に手招きをした。


「あの、話とは」

 障子を透ける黄金色の光が伊作君の髪に反射した。
 明るい障子を背に、彼の表情は分かりにくいけれど、いさ子ちゃんではなく、伊作君として、此処に来ている事は感じ取れた。

 きっと、彼は、私が何を聞こうとするのかは分かっているのだろう。

「幾つか、確認したい事があります。答えられないものには答えなくて構わないので」

「……はい」

 未だ立ちっぱなしの伊作君に、座ってと言えば、居心地悪そうにもぞもぞと腰を下ろす様に苦笑が溢れた。
 さて、何から、どう話していこうか。

「……学園長先生が仰っていた、私がタソガレドキの雑渡さんに対しての質になるという噂は、本当に各地に流れているんですよね?」

 頷きが返ってきた。

「その話を吹聴したのは、」

「元ヨイヤミ忍者隊首領、東堂藤ヱ門(とうどうふじえもん)、でしょうね。」

 伊作君が言葉を繋いだ。

「まず、其処が分からないんです。東堂は何故、其処まで雑渡さんを付け狙うの?」

「……それは、」

 ふっ、と目を伏せた、伊作君はやがてまた微かに口を開いた。

「固執、盲執、果ては、狂気……理由を探ったとして詮無き事なのかもしれません」

「……そう、ね」

 私は息を吐く。
 影法師みたいな悲し気な背中が、ほんの一瞬、頭に過った。

「その、詮無き事に、雑渡さんと貞明さんは乗っかっている」

 国の危険も犠牲も省みず、ただ私憤を晴らす為だけに、その狂気を被る。

「……ある意味では、」

 伊作君の声が重く、私達の間に落ちる。

「それこそ、謀反なのかもしれませんね」

「止める事は出来ないんですか」

 伊作君の目が私を見た。表情は読めない。

「……どうやって」

「…………」

 私は何も言えなかった。
 今のは軽率だった。
 伊作君の目は、薄暗く、知らない人みたいに見えて、

 ああ、そうか。
 彼は私よりも余程分かっている。

 と、そう思った。


「僕が出来る事はちどりさんを守り、無事に学園まで戻る事。学園の方でも恐らく何かしらの動きはあるのかもしれません」

 沈黙が流れた。
 ねぐらに帰る烏の声が、近づいて、遠ざかる。



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