いしゃたま!
□お殿様のご提案なさるところ
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※ドクタケ支城の主、城勤めの者達等オリジナルモブ多数。
「開門!!」
風鬼さんの声と同時に門が開く音が耳の中を引き摺りながら響いて、開いた先の光景に、私は、うっと、小さく唸ってしまった。
予想通りではあるのだけれど、門の直ぐ向こう側では城勤めの人達が膝を着き、伏礼の状態で、それは平民の私(今はお殿様の姪御の体なんだけど)に等到底向けられる様なものではない。
正直言って、面食らう。
今にして漸く襲ってきたとてつもない緊張と、背中がぞわぞわするような居心地の悪さに、私は、やっぱり止める、と、馬から飛び降りたい衝動を押さえた。
「態々の出迎え御苦労。姫の一の従者、日吉貞光である」
私が押し黙っていれば、貞明さんの凛と響く声。
偽名を名乗りながらも、その横顔は堂々していて、ああ、この人はやはり武家の出なんだ、と、今更ながらに思った。
「姫はお疲れの御様子じゃ。湯を用意し部屋に通して頂きたく存ずる」
貞明さんのその一言に、私が馬から降りやすい様に踏み台が置かれ、貞明さんが私の手を取ってくださった。
「さあ、姫」
「あ、ありがとうございます」
周りが僅かにざわついた。
貞明さんは片眉を少し上げ、苦笑する。
「……まっこと、ちどり姫様は、ただの家臣でしかないこの貞光めにもお優しいお方でございまするなあ」
「え、あ」
そうか、今のは不味かったのか。
弁解しようとしたが、貞明さんの目がそれを諌め、口をつぐんだ。
うん、私が下手に喋ると襤褸が出そうだ。もう黙っておこう……。
「誰か、部屋への案内を頼む」
曇鬼さんが手招きすれば、白髪のお爺さんがにこにこしながら私達の前に歩み出て深々と腰をおった。
「此処では最も長く勤めております太吉でございます。ささ、此方へ。御休み頂きたい所では御座いますが、この城の守護をされております筆頭家老、九里野半次郎様、それに殿がお待ちでございます」
「……栗ご飯次朗?」
失礼だけれど、しんべヱ君が聞いたら涎を垂らしそうな名前だわ。
「九里野、半次郎様です」
「…………」
隣でいさ子ちゃんがふっと口許を押さえるのが目の端に写った。
もしかしなくても笑いを堪えているなとじとりと見れば、目だけがふっと柔らかく半月になり、私を見る。
何が可笑しいんだと言いたい所だけど、また何か失敗するのも恐いし、やっぱり、私は暫く黙っておこう。
……ああ、息が詰まる。
「おお、ちどりよ、久しいな。息災であったか?」
「はい。………お、叔父上様も、ご機嫌麗しい様で何よりです」
太吉さんに通された大きな部屋。その奥に座する一応は顔見知りであるお殿様と、その隣にちょこんと置かれた可愛い張り子馬を見て、妙にほっとした。
仮の叔父。ドクタケ城主、木野小次郎竹高様はうんうんと満足そうに頷いた。
「何か不便があれば、そこの九里野を頼れ。九里野、頼んだぞ」
「はっ」
竹高様の側に控えている、大柄な中年寄りのおじさんが軽く頭を下げる。つやつやと日焼けした顔の中で丸い団栗眼が私を見た。
「斯様な山城、大した持て成しも出来ませぬが、この九里野めになんなりとお申し付け下さいませ」
「有り難う存じます」
私が会釈すれば、にかりと笑い、今度は竹高様に顔を向ける。ぐりんとした目がやたらと目立つ人だ。
「いや、流石は殿の御血縁の姫様でありまするな。この侘しき城に花が咲いたようにございます」
「当然じゃ」
竹高様は事も無げにそう言う。
その手の中で、扇子がぱちりと音を立てた。
「半次郎。少しちどりと話をしたい。一先ず下がりゃ」
「承知しました」
「従者殿と、下女殿は、残るが良い」
貞明さんと、いさ子ちゃんの雰囲気が少し固くなる。
それは、九里野さんが退室されてから更に顕著になった。
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