いしゃたま!
□それぞれの思惑
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※…久しぶりのオリジナルキャラ、大騒動編の彼です。
馬に乗るのなんて初めてだけど、まあ、何とかなるものだ。
全然嬉しくはないけど。
立花君からお借りした市女笠の垂布の向こう側で、山城が微かに見えた。
「……大丈夫ですか?お疲れなら、」
小さく溜め息を吐いた私に、心配そうな声が隣から掛かる。
私はその人物を見下ろして、笑った。
「大丈夫でしす。朝から思ってたけど、やっぱり凄い可愛いね、えっと…………いさ子ちゃん?」
娘姿の伊作君もとい、いさ子ちゃんは、馬の横で私を見上げながらにこりと照れくさそうに微笑む。
元々可愛らしい顔立ちだとは思っていたけど、全然違和感がないから恐ろしいくらいだ。
「仙蔵の見立てですから、ちどりさんの方こそ、とてもお綺麗です」
「あ、ありがとう」
面と向かって言われると私も照れる。
お互い顔を赤くしていれば、前方から呆れた様なやんわりと咎める声。
「いさ子殿、此処は既にドクタケ領地です。様をお付けして呼ぶ方が宜しいかと」
私の馬を引く彼は苦笑しながらそう言った。その左目の下に小さな向こう傷。
「すみません……日ノ村さん」
道中は、私、伊作君(女装中)、そして、元アケガラス侍大将の息子でヨイヤミの抜け忍、今はタソガレドキ忍軍の会計方をされている日ノ村貞明さん。
「もうすぐ城に着くぞ、ちどりちゃん」
それから、ドクタケ忍者隊、曇鬼さんと、
「おい、ちどり姫様だろ」
同じくドクタケ忍者の風鬼さん。
奇妙な道中は、間も無く、ドクタケの支城へ入城する。
いさ子ちゃんをそろっと見下ろせば、緊張している様な固い表情で山城の屋根を睨み付けている。
……本当に、どうなることやら、
私の再びの小さな溜め息が、虫の垂布に微かに当たった。
さて、何だってこんな事になっているかと言えば、話は今より三日程前に遡る。
「な、何をするんだ!!」
「何処へ連れていくつもりなのだ!!」
「あわわわわ!?」
金楽寺からの帰り道、山賊の襲撃を受けた後、そこを救い出して貰った(?)暗殺者海松万寿烏からタソガレドキの内乱とドクヤマドリとかいうところが私を狙っていると聞かされ、入れ替わるようにやって来た立花君(女装)がドクヤマドリの忍者に追いかけられていて、ドクタケの……
って、
「もう!何なのこの状況は!?」
私、伊作君、立花君はドクヤマドリ忍者達から逃げるように、ドクタケ忍者隊達に抱えられて山道を何処かへと連れていかれている。
誰か、誰でも良いからこの状況の説明をしてください!
「待て」
低い声が響くと共に、ドクタケ忍者隊達が急に立ち止まった。
「佐武の狙撃手か!」
ドクタケ忍者隊達の進路を絶つように、其処に静かに立っている照星さん。
たった一人だけなのに、凄まじい威圧感だ。
「此度、佐武衆は学園に着いている。そして、今、私はそこの女人の護衛だ。お前達の目的はなんだ」
照星さんの腕に銀光を溢す刃がすらりと抜かれる。
「返答によれば、私が鉄砲打ちだけでは無いことを教えてやることになる」
じたり、と私の背中を嫌な汗が伝うのを感じる。
ドクタケ忍者隊の人達は私達をそっと地に下ろした。
「成る程、佐武にはまだ伝達が届いていないのか」
「我々は今から一先ず彼等を学園に送り届けるだけだ」
「一先ず、な。」
「心配ならお前も同行すれば良い、続きは学園で話す」
そう言ったドクタケ忍者隊の人達、その中から達魔鬼さんが歩み出て、刀を照星さんに差し出した。
「預かれ。此が信じるに値する質になるかは知らぬが、我々は今は学園に危害を加える気は無い事の証だ」
「…………」
照星さんが、それを無言で受け取り、私達はまた動き始めた。
「では、学園に行こうか」
私の背を促すように押して歩き出した達魔鬼さん、そこからばっと、伊作君が私の腕を引いて、引き離すようにした。
おやおや、だとか、若いねえだとか、背後から誰かしらの声が聞こえてきて、顔に熱が籠る。
私は、それを誤魔化す様に、苦笑している達魔鬼さんを見返した。
「達魔鬼さん、いったい何が起きているんですか」
「先程も言った様に、学園にてお話し致します」
そう言って、戸惑いっぱなしの私達はドクタケ忍者隊に連れられて、学園の帰路に着いたのであった。
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