いしゃたま!

□やにわに雨天
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「や、やっと着いた……。」

 金楽寺の長い長い石段を登り切れば、小僧さんが頭をひょいと下げた。

「忍術学園の方ですね。お待ちしておりました、ご案内致します」

「ありがとうございます」

 額の汗を拭う。
 隣の照星さんは涼しい顔だ。流石と言うか何と言うか……。


 小僧さんに案内され、通された僧坊の一室では、俯せになったお坊様がにこやかな顔を此方に向けていた。

「ああ、態々のご足労、誠にいたただだだだあ!!」

 起き上がろうとして、痛みに悶絶する和尚様に小僧さんと私達は慌てる。

「あわわわ!和尚様!!」

「寝たままで大丈夫ですから!ご無理をなさらず!!」

 和尚様を再び布団に寝かし付けて、漸く改めて挨拶をした。

「お初にお目通り致します。忍術学園の保健医助手を勤めさせて頂いております三反田ちどりと申します。」

「そうですか、貴女が。お話は予々(かねがね)、大川平次より伺っております。そちらの方は?」

「本日、ちどりさんの道中の供を致しております、佐武の照星というものです」

「そうですか。いや、この様な無体をお見せし、失礼します」

「お気になさらないで下さい。私達は、その為に此処へ参ったので」

 荷物から湿布薬と軟膏を取り出し、小僧さんに処方の仕方を伝える。
 和尚様は俯せた状態でそれにうんうんと頷いている。

「有難うございます。茶を用意させますので、直ぐにお戻りになる用事が無いのなら、どうか拙寺(せつじ)で休んでいって下さい」

「お大事になさって下さいね」

 お言葉に甘えて、お茶と落雁をご馳走になりながら和尚様と暫し談笑した。
 和尚様は元忍者だそうで、学園長先生とのお若い頃の思い出話等はとても面白かった。





「では、私達はそろそろ。お茶とお菓子をご馳走様でした」

「此方こそ。またいらして下さい」





 小僧さんに門の所まで見送られて、石段を見下ろす。そうだ、これがあった……。

「帰りも迂回するんでしょうか?」

「そのつもりでしたが、」

 隣に立つ照星さんは眉を少し潜めて空を見上げる。
 行くときは青空が見えていたのに、今は灰色の曇天だ。

「……雲行きが宜しくない、早めに帰りましょう」

「は、はい」

 石段を降り始めた照星さんに、私は慌てて着いていった。


 そして、結局。道の半ばに曇天はその重みに耐えかねたように滴を落とし出した。


 みるみる間に、強くなる雨脚の中、必死に走る。

「もう少し行った所に茶屋があったかと思います!」

 少し前方を走る照星さんにそう言えば頷きが返って来る。

「そこまで大丈夫ですか?」

 雨筋を縫っていく照星さんのその声に私も頷きを返した。



 漸く見えてきた茶屋の軒下に駆け込む。

「はあ、凄い雨ですねえ」

「ええ、すみません。濡れてしまって」

「天気は仕方無いですよ」

「店の者に手拭いか何かを貰えないか聞いてきましょう」

 照星さんは店の中へと入っていく。なんか前にもこんなやり取りを誰かとしたような……ああ、そうだ。

 私は目を細め、正に篠突(しのつ)く雨と言うべきな外を見つめる。

 善法寺君と以前、町に行った時だ。あの時も急な雨で、急いで茶屋に、





「ちどりさん……?」


 幻聴かと思った。

 その柔らかい声が聞こえた先をばっと、見れば、其処にいる人物に私は呆けた顔になる。


「……な、なんで此処に?」

「いや……、えっと」

 全身泥だらけの善法寺君が雨の中で突っ立っていた。



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